うちの会社はスバラシイ? 内部通報“ゼロ件”の恐ろしさえっホント!? コンプライアンスの勘所を知る(3/3 ページ)

» 2012年03月16日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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「従業員は勇気を持って!」は無責任?

 法律で、通報者の不利益は排除することと定められているのだから、「安心して通報し、自分の会社を健全な会社にしよう!」というのが模範的な解答だ。その方が無難だし、筆者もそのようにできる制度であってほしいと思う。ただし、実態はどうだろうか。

 正直に言えば、不利益になるケースが後を絶たないというのが実情だ。絶対にそういうことではいけないし、処罰する側も「処罰してはいけない」と考えていただきたいが、日本ではそういう文化がない(密告という印象を与える)ため、現場を変えるのは本当に大変なことだ。

 それでは、弁護士事務所を通報窓口にしていれば良いかというとそうでもない。

 実際、数年前に弁護士が匿名で通報内容を会社に伝達する際に、誤って実名を会社に連絡してしまい、通報者がその翌日から自宅待機を命じられてしまったケースすらある。

 この事件では「やはり通報なんてしない方がいい」と一般の人が考えてしまうようなことになってしまいかねないだろう。実に残念なことだ。

 ただ“救い”もあり、その後に第2東京弁護士会綱紀委員会がその弁護士を「懲戒相当」と議決したことで、公益通報者保護法の体裁を何とか保つことができた。

 2009年7月には、第一法規とスパイアが「会社員のためのコンプライアンス意識調査」を発表している。この中で、「コンプライアンス違反を上司や内部通報窓口に伝える」と回答したのは26.4%に留まっている。この数字は現場感覚を知っている筆者としては、「そんな感じかな」と思う。でも、これではいけないのだ。コンプライアンス教育は年々盛んになっているが、そこに魂が入らなくては全く意味がない。自戒を含めてこの数字を限りなく100%に近づけたいというのが筆者の願いである。

これから

 経営者や会社側の立場にいる方(人事部長など)が従業員を処罰する際に、「なぜ処罰されるのか」が従業員側から見ても納得できることが求められる。処罰が本当に適正なのかをぜひ自問自答していただきたい。最近の判例では経営側の常識の無さが浮き彫りになる場合が多い。また従業員が内部告発を行う目的で、例えば、営業秘密を持ち出すような行為は、原則として営業秘密侵害罪には当たらない(当然ながら条件はあるので何でもよいということではない)。社則で禁止した行為に抵触したからといって会社が従業員を提訴するケースもあるようだが止めておいたほうがいい。筆者なら、経営側が提訴しないよう説得するだろう。敗訴する可能性が高く、しかも社会から「あの会社はこういう体質だ」と評価されてしまうだけに過ぎないからだ。

 企業としては、通報ゼロ件を目指すのではなく、逆に通報者に報奨金を出すようなことを考えても良い時期に来ていると筆者は思う。欧米でもそのような取り組みが広がっているし、国内でもまだごくわずかだがそうしている企業も現れ始めている。

 従業員側はどうか。筆者は最近、少し変な情報を聞き及んでいる。それは通報制度を悪用して、事実がないのに通報したり、上司に叱責されてその「恨み」から通報したりするというケースだ。こういうことがまかり通ると、結局は自分たちの正当な権利を失いかねないし、発覚すれば従業員の行為が激しく非難され、懲戒解雇は当然のこと、自分の名前が全国に知れ渡ることになる。絶対にそのような考えでの通報は避けるべきであり、あくまで「会社をより良いものにしたい」「自分は会社を愛しているからこうするしかない」というくらいの気概で通報したいものだ。

 通報において証拠は完璧である必要はないのである。従業員として「おかしい」と感じ、ある程度の根拠さえあれば、本来はぜひ通報すべきと思う。それが不正摘発のきっかけになる可能性もあるのだ。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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