お金がかかるからなぁ……。そんな軽い意識からの行為がどのような結末をもたらすのか、読者はご存じだろうか。
今回は筆者が所属する「コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)」で問題となっている違法コピー問題について、コンプライアンスの側面から解説したい。
かつて、“いたちごっこ”の様相を見せた秋葉原の路上での「違法コピー販売」は、最近ではすっかり影を潜めた(それでも時々見受けられるが)。これはACCSの努力によるものが大きいと思っている。少し前までは至るところで外国人風(日本語があまり話せない)の若者が近寄ってきて、「DVD1枚1万円」と声をかけて売り歩いていたものだ。
内容はその時によって多少違うが、大抵はMicrosoftのWindowsやOfficeで、シリアルナンバー付きやアクティベーションを行わない改造版もあった。このようなソフトを筆頭に、高価なソフトウェアが何十種類もDVDに“てんこ盛り”という感じで収録されて販売が行われ、定価で換算すると40、50万円を超えるようなソフトの山もりが1万円で売られていた。国内で禁止されている局部が鮮明に写ったヌード写真などを販売するグループもあった。
こうした違法コピー市場は、2011年の発表によると、世界で590億ドルとなり過去最高を更新している。その中の指摘で興味深いのは、記事にある「違法コピーの方法で最も多いのは、正規に購入したライセンスを複数のPCにインストールするというものだ。コンシューマーの60%、企業の47%が、この行為を違法ではないと誤解しているという」という部分である。企業の47%が、基本を理解していないのだ……。
例え国内企業でもあっても、相当な数の違法コピーがまかり通っているのである。ビジネス ソフトウェア アライアンス(BSA)の「違法告発.com」によれば、2009年だけで510件もの告発があり、大企業も数十件含まれているという実情である。過去には官公庁やメガバンクもあった。
※BSAとは世界80カ所以上の国や地域において、政策提言・教育啓発・権利保護支援活動を通じ、ビジネスソフトウェア業界の継続的な成長とともに、安全で信頼できるデジタル社会の実現に貢献している非営利団体のこと
ここでは、個人が勝手に自分のOA端末に自宅で使っている便利なソフトを勝手にインストールするというケースは含まれない。あくまで組織的にコピーが行われるケースである。これには主に2つのケースがある。
2のケースは、“そもそも論”の問題だ。IT資産管理ツールの導入や検査部署におけるPC資産の棚卸しの際に、内容を精査するなどの一連の作業を実施してから、違法コピーを削除するか、正規ライセンスを追加購入するかなどの対応を取ることになる。
実際には1のケースが多いと想定される。企業規模に関係なく、ソフトウェアベンダーなどから多額の賠償を請求されている企業が、実は少なくないのだ。直近では2012年1月18日に東京簡易裁判所において、違法コピーを行っていた都内の労働者派遣会社とBSAの間で1億5千万円に上る調停が成立している。
著作権侵害という行為は、企業やそれを行う従業員は軽く考える節があるが、甘いものではない。秋葉原の大型電気店でソフトの箱を盗んで使用する場合(窃盗)と、1つだけ正規に購入してそれを社内の多数のOA端末にインストールし業務で使用する(著作権侵害)のケースでは後者の方が罪は重いのだ。
世間では窃盗の方が罪は重いと考えている人が多い。だがBSAでも警告しているように、窃盗ではその行為者に課せられるのが「懲役10年以下もしくは罰金50万円以下」なのに対し、違法コピーの場合ではその行為者や直接指示した上司に「懲役10年以下、罰金1000万円以下」が科せられる。罰金額は2けたも違うし、違法コピー犯罪では懲役と罰金の両方が科せられる場合もある。それに加えて、行為を許した企業に「3億円以下の罰金」も科せられるなど、非常に厳しい罰則が待っているのだ。
また、これ以外に民事的には上述の判例のような「得べかりし利益」の算定がなされて、ソフトウェア会社にかなり金額を支払う場合がある。調停後に違法行為を続けた企業にペナルティを科せられたケースもある(聞くところ、想定損害額の2倍で決着したそうだ)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.