人月ビジネスを捨て、成功報酬型モデルへの転換を田中克己の「ニッポンのIT企業」(1/2 ページ)

受託ソフト開発会社の多くが新ビジネスモデル創出に躍起になる中、シンプレクス・ホールディングスはリスクをとって自社開発したサービスを提供して高収益モデルを確立したい考えだ。

» 2012年04月10日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 「人月ビジネスの脱却」。多くの受託ソフト開発会社が新しいビジネスモデルの創出に必死だ。知識集約型など労働集約型に代わるビジネスに転換できなければ、じり貧になる可能性もある。

 そんな中で、インターネット取引やディーリングなど金融系フロントシステムに特化するシンプレクス・ホールディングスは、成功報酬型に成長の活路を見出そうとしている。ユーザー企業がサービスを使って獲得した収益の一部をインセンティブとして課金するものだ。自らのリスクで開発したサービスを提供し、高収益企業を目指す。

営業利益率20%弱を確保

 受託ソフト開発会社の営業利益率は平均5%程度である。対して、シンプレクスは20%近い数字を維持し続けている。金融系フロントシステムに徹し、上流コンサルティングから受ける体制をしいているからだ。加えて、「システム化にあたって、当社がアイデアを出し、当社がソースコードの著作権を持つ」(金子英樹社長)ことで、開発したシステムの横展開によって部品ライブラリ化を充実し、「新しいものを作ることを少なくすればするほど、利益率を高める」(同)事業構造にした。

 だが、何人月の労働集約型ビジネスから完全に抜け出せるわけではない。そこで、自らが企画、開発したサービスを提供するUMS(ユニバーサル・マーケット・サービス)事業を開始した。その第一弾は、2003年に始めた個人投資家向けインターネット取引サービス「SPRINT」である。SaaS提供のSPRINTはネット証券会社などで使われており、基本料に利用者数やトランザクション量などによる従量課金を組み合わせた料金体系になっている。

 SPRINTの機能拡充などで、2011年度(2012年3月期)の売上高見込み約160億円のうち、UMS事業(サービスと導入)は69億円を占める。保守を含めたシステム構築のSI事業(約70億円)とほぼ同額に成長した。UMS事業を伸ばし、安定した収益基盤にするためにSPRINTを大幅に機能強化した個人投資家向けFX(外国為替証拠金取引)システム「Voyager Trading cloud」を投入した。

 2009年に大阪証券取引所向けに開発した個人投資家向けFXシステムをベースにするVoyagerは基本料と従量課金に、成功報酬を加えた3階建ての料金体系とした。例えば、FX事業者が、取引1枚当たりの収益が100円あったところに、Voyagerを活用して20円プラスになったら、20円に何割かを課金する。月間取引数量が500万枚あったら、増加した収益1億円の一定割合がシンプレクスに入る仕組みだ。

 問題はどのように顧客を獲得するかだ。2011年6月にVoyagerを発表した折り、三田証券(基本料金と従量課金の2階建て)が採用することを明らかにしたが、3階建ての料金体系を適用するファーストユーザーは今夏ごろになる。「Voyagerで、収益を伸ばせる」(金子社長)ことを証明し、市場が低迷する中でも導入ユーザーを増やす作戦である。データベース処理の高速化を図るオンメモリや高速メッセージングを自社開発したり、独自の障害対策機能を盛り込んだりしたのも、そのためだ。こうした機能の開発にあたる金融工学やシステム設計などに優れた人材を確保しているのが、シンプレクスの強みでもある。

シンプレクス・ホールディングスの業績推移(単位:億円) シンプレクス・ホールディングスの業績推移(単位:億円)
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