人月ビジネスを捨て、成功報酬型モデルへの転換を田中克己の「ニッポンのIT企業」(2/2 ページ)

» 2012年04月10日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]
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収益を上げるサービスを提供

 シンプレクスはコンサルティング会社、投資会社などでシステム開発を担当した金子社長らが1997年に設立した。「金融機関が収益を上げられるように、ITで側面から支える」(金子社長)との考えから、システム化の上流工程から開発、運用・保守を請け負う。多くの受託ソフト開発会社と同じようにみえるが、シンプレクスは1人が全工程を担当する。上流はコンサルティング会社、開発は受託ソフト開発会社、運用はアウトソーシング会社という役割・機能分担ではなく、一連の作業すべてを社内で行う。

 「あるべき姿を描いた人が開発、運用も手掛ける」(金子社長)ことで、ユーザーの目標達成に向けた課題が運用・保守の段階で発見できる。その課題は次のフェーズであるコンサルティングで必ず解決する。「こうしたら儲かる、ということを支えるシステムにする」(金子社長)うえで、この体制は顧客満足度も上げられるという。人材確保にも力を入れており、「全員プレーヤーを目指し、頭が切れて、頭の柔らかい人」(金子社長)を採用する。視野が広くて、ビジネスにもITにも精通した人材をそろえるためだ。

 シンプレクスは設立5年目の2002年にジャスダック、2004年に東証第二部、2005年に東証第一部へとスピード上場する。この間、年率約30%の高成長を遂げた。だが、2010年度(2011年3月期)は売上高165億円、営業利益38億円を計画したものの、149億円、25億円強に終わった。初の減益である。

 2011年度も期初予測の売上高175億円、営業利益31憶円を下方修正し、売上高160億円、営業利益20億円とした。大型SI案件が見込みほど受注できなかったことなどによる。証券会社向け株式ディーリングシステムなどが一巡したこともあるが、2012年度は売上高170億から180億円、営業利益35億から40億円を目指す。シンプレクスが高成長を再び確保するには、大型SIの獲得とUMS事業の拡大にかかっている。


一期一会

 金子社長はアーサーアンダーセンアンドカンパニー(現アクセンチュア)、キャッシジャパン、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現シティグループ)でシステムなどを担当した。金融系フロントシステムに注力したのは、こうした経験があるからだ。構築したシステムの価値を理解し、それに対する正当な料金を支払ってくれるからでもある。しかし、金融に固執しているわけではない。正当な評価をしてくれる業種があれば、対応する考えはある。

 金子社長は人月ビジネスを嫌っている。ハードベンダーが製品を売るために編み出したこのビジネスは、システム構築を失敗しなければ赤字にならないし、一定の利益率を確保できる。だが、利益率を高めるのは至難の業だ。シンプレクスも20%近くなったものの、それ以上を目指すには自らリスクをとらなければならない。自前できちんと投資して、開発した商品をサービス提供する。そして、顧客が儲かった分に見合うインセンティブを得る。

 この成功報酬型に到達したのは、ソロモン時代にトレーダーが株式や債券などの売買取引で利益を得るためにITシステムも駆使していたことが大きい。良いITを手に入れたトレーダーほど利益を上げられる。その優れたITを開発した人も利益増に貢献したのだから、それに見合う対価を得られるはず。そう考えると、成功報酬型ビジネスはITサービス会社が進む一つの道である。

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