コーポレートガバナンスの盲点松岡功のThink Management

今回は、コーポレートガバナンス(企業統治)について気になる点を述べたい。

» 2012年04月19日 08時45分 公開
[松岡功,ITmedia]

ますます求められるガバナンスの強化

 富士通元社長の野副州旦氏が、虚偽の理由で不当に社長辞任を強要されたとして、同社と当時の役員4人に約3億8000万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地方裁判所は4月11日、「証券会社など複数の情報に基づいた辞任要求には相応の根拠があった」などとして、野副氏の請求を棄却した。

 野副氏は、面識があるファンド関係者が反社会的勢力に関与しているとの不確かな情報を理由に同社役員が辞任を強要したのは違法と主張。損害賠償と全国紙各紙への謝罪広告の掲載を求めていた。

 この訴訟に至る経緯については、コラム「Weekly Memo」の「富士通の野副元社長辞任問題にみるガバナンスの真髄」(2010年4月19日掲載)および「明らかになった富士通の野副前社長退任劇」(2010年3月8日掲載)に詳しく記しているので、文末の関連記事を参照していただきたい。

 野副氏は同日午後に会見し、「私が主張したことが一切認められず、極めて残念だ」と述べ、控訴審で引き続き争う意向を示した。また、会見に同席した外山興三弁護士も「少しでも疑いがあれば、上場企業の社長を解任してよいという判決。日本企業のコーポレートガバナンスを後退させかねない」と判決内容を批判した。

 一方、富士通は同日、「当社の主張が全面的に認められ、満足している」とのコメントを発表した。

 この一件は、コーポレートガバナンスの観点からも大いに注目された。さらに最近では、オリンパスや大王製紙の不祥事を受けて、これまでにも増してコーポレートガバナンスの強化が求められるようになってきた。ただ、このところの論議には少々気になる点がある。

 訴訟判決を受けて会見を行う富士通の野副州旦元社長(右)と外山興三弁護士 訴訟判決を受けて会見を行う富士通の野副州旦元社長(右)と外山興三弁護士

注力すべき社内取締役のスキルアップ

 気になるのは、社外取締役の設置の義務化という話ばかりが論議の焦点になっているように見受けられることだ。もちろん、社外取締役の設置は、取締役会に外部の視点を持ち込むことで、コーポレートガバナンスを強化するという明確な狙いからも非常に重要な取り組みである。

 その義務化については、現在法務省の法制審議会で検討されている会社法改正の議論の焦点にもなっていることから、ホットな話題になっているのも当然のことだろう。

 社外取締役については、東京証券取引所の1部上場企業の約半数が導入済みとされるが、仮に全面的に義務付けとなれば、中小企業まで対象が広がる可能性もある。大企業も検討次第で複数の起用を求められるかもしれない。

 ちなみに直近の動きでは、民主党の政策調査会が4月12日に、会社法改正に向けた一連のプロセスとして、コーポレートガバナンスの強化に関する中間提言をまとめ、上場企業が社外取締役を積極的に活用するためのルールづくりが必要だと指摘している。

 ただし、当初は有価証券報告書の提出義務がある会社を対象に社外取締役の設置を法的に義務付ける方針だったが、経済界などからの慎重な意見にも配慮して明記を見送ったという。

 そうした動きもさることながら、そもそも社外取締役がコーポレートガバナンスの強化に向けて、本当に効果的なのかという議論もある。社外取締役の仕事は取締役会への出席と経営への助言が中心になるが、例えば不正行為などガバナンス上の問題が起きたとしても、その内容が取締役会の議論に上がることはまずなく、社外取締役が問題に気づくのは難しいのが実情だ。

 また、社外取締役を設置したとしても、経営トップである社長もしくは会長に、厳しくノーと言わない人物が選ばれることが少なくない。社外取締役のチェックが経営上の障害になると考えるためで、実はそれが必要な企業ほど無害な人物が選ばれてしまうこともよくある。

 そこで話を戻すと、社外取締役に関する話ばかりでなく、まずは既存の社内取締役のコーポレートガバナンスにおけるスキルアップにもっと注力すべきではないか、というのが筆者の主張である。意外に盲点ではなかろうか。

 ちなみにニューヨーク証券取引所は、各上場会社に対して役員研修に関する企業方針や実施状況の開示を求めているという。役員としての研鑽を重視しているわけだ。

 とはいえ、コーポレートガバナンスを強化するためには、経営トップの暴走をはじめとしたさまざまな事象に対処できる組織づくりやルールづくりが不可欠だ。それと併せて、どのようにしてプロの取締役を育てていくか。これからはもう功労賞だけの取締役は通用しない。

 そう考えると、コーポレートガバナンス強化への取り組みは、長年培ってきた日本の企業文化に変革を迫っているともいえそうだ。

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