2014年のWindows XPのサポート終了を控え、既にXP対応が打ち切られるソフトウェアが現れ始めた。ソフトウェアのサポート終了という視点から、新たなクライアントPCによる業務環境の実現を考えてみたい。
PCの新カテゴリーとして注目を集める「Ultrabook」。高いモバイル性能から、外回りの営業担当者にとって最適であることを既に検証した。電力危機が叫ばれる今夏、Ultrabookが節電を支援するソリューションになるであろうことも確認済みだ。モバイル性能と節電はこれからの業務環境を改善することにつながる。だが、情報システム部にとって重要なことは、背後から確実に迫りつつある問題――Windows XPのサポート終了と、それに伴う業務アプリケーションやセキュリティ関連ソフトウェアのサポートの終了だ。今回は情報システム部に勤務するC課長の視点で、Ultrabookがソフトウェアのサポート終了問題にどう効果があるのかをチェックしてみよう。
2012年4月のある日、情報システム部に一通の封書が届いた。差出人はセキュリティ対策ツールのパッケージソフトウェアベンダーだ。2012年いっぱいで、わが社で利用しているバージョンの更新と定義ファイル配信を終了するという内容が書かれていた。
わたしは情報システム部の朝のミーティングで、早速どうすべきかを議題にした。部下のA君が言う。「定義ファイルの配信が続けられるバージョンアップすれば済むのでは?」。バージョンアップすればと簡単に言ってくれるが、社内で開発した業務アプリケーションや、その他のアプリケーションの稼働に問題がないかを動作検証することがいかに大変なのかを、課員たちは分かっていないようだ。そんな不満を持ちながら、わたしはセキュリティ対策ツールの最新版をベンダーのホームページで調べてみた。
するとどうだろう。なんと、対応OSにWindows XPが含まれていないのだ。現在の社内のクライアントPCを使い続けるには、OSをWindows XPからWindows 7に切り替えるか、定義ファイルが更新されないPCをマルウェアの脅威に晒すか、どちらかを選択することになる。「不満」は「不安」へと変わった。
まずは、Windows XPをWindows 7に移行する手段を検討してみる。マイクロソフトのホームページからアップグレードが可能かどうかを確認できる「Upgrade Advisor」をダウンロードして検証した。
その結果は悲惨なものだった。システムが稼働要件を満たさず、デバイスドライバ関係では互換性のないものが多数存在するようだ。CPUは辛うじてセーフだった……。512Mバイトしかないメモリは、Windows 7の最小要件(1Gバイト)を満たしていない。地方拠点を含めた社内全てのクライアントPCのメモリを1Gバイトに増設することは、とんでもなく手間がかかる作業だ。外注してもPCを入れ替えられるくらいの経費がかかってしまう。メモリを増設するだけでPCベンダーのサポートが受けられなくなってしまう。
これ以上は悩むのをやめよう。今のクライアントPCのOSをWindows 7に切り替えることは無理だと分かった。マルウェアの脅威に晒されることに目をつぶり、運を天に任せて現在のクライアントPCを使い続けようか。情報セキュリティ対策への関心よりもコストを重視するわが社の経営陣なら、それでいいと言うかもしれない。しかし企業の社会的責任がますます重視される今、こうした態度は世間に認められるものではないはずだ。セキュリティ対策の不備で情報漏えい事故が起きれば、取引先から関係を断ち切られることも十分考えられる。そうなれば情報システム部に責任が擦り付けられるのは火を見るより明らかだ。
さらに調べていくと、既にソフトウェア製品の中でWindows XPに対応しないことが徐々に広がり始めていると分かった。例えば、マイクロソフトはInternet Explorer(IE) 9以降でWindows XPへの対応をやめている。Windows XPでは2014年にサポートが完全終了するまで、IE 8を使い続けなくてはいけない。あと数年も経てばHTML5で作られたIE向けのWebアプリケーションがどんどん増えてくるだろう。Webブラウザ上で動作するアプリケーションが増えているので、このままでは利便性の高い手段の選択肢が狭まってしまう。
今夏にβテストが始まるという次期オフィススイート製品の「Office 15(開発コード名)」もWindows XPには対応しないだろうというウワサも耳にした。最近発表されたSQL Server 2012がWindows XPに対応していないので、Office 15もその可能性が非常に高い。
他社の情報システム部に勤める友人に、セキュリティベンダーの動向を聞いてみた。「シマンテック、マカフィー、トレンドマイクロなどの有力ベンダーはいずれも現時点でWindows XP対応を続けている。しかしトレンドマイクロは、Windows XPのサポート終了後に製品のWindows XP対応をしないことと明確に示しているし、他社もユーザーの動向を見ながら、Windows XPの切り捨て時期を見計らっている状態だ」と教えてくれた。
わが社のように、Windows XPのクライアントPCが“現役バリバリ”という企業はまだまだ多い。マイクロソフトがWindows 7への移行を積極的に推奨しているものの、抵抗を示すユーザー企業もあると聞く。だが、サポートが終了間近のOSや古いPCを使い続けるメリットはない。
「思い切ってWindows 8はどうか」いう考えも頭をよぎったが、たぶんWindows XPからWindows 8に移行することは、Windows 7に移行するよりもはるかに業務部門からの抵抗が大きいだろう。わが社の一般社員のITリテラシーは決して高くはない。Windows XPを使い慣れたユーザーに、Windows 8のMetro UIは敷居が高すぎるように思う。それなら着実に導入が進んでいるWindows 7の方が、容易に事が進むはずだ。移行作業を担当する情報システム部門にとっても、導入事例が多いのは心強い。やはり、Windows 7へ速やかに移行するのが賢しい選択だ。
ハードウェアはどうしようか――そう考えていると、IT関連ニュースサイトで「インテルが2011年にコンセプトを発表したUltrabook製品が出揃ってきた」という記事を見つけた。Ultrabookは薄くて軽いし、バッテリーの駆動時間も長いから「モバイル専用マシン」だと決めつけていたが、メーカー各社のラインアップを見ると、それは間違いだったと分かった。デスクトップの代替としても、十分な機能や性能を持っている。Windows XP時代のクライアントPCと比べても、プロセッサやストレージ性能は段違いに優れているし、画面解像度も最大でフルHD(1920×1080ドット)を選択できる。わたしは、わが社のクライアントPCの最有力候補を「Ultrabook+Windows 7」に決めた。
もちろん、Ultrabookは高性能なモバイルPCというのが一番の特徴だ。わが社の取締役陣は新しい物好きだから、社長に提案しているオフィスのフリーアドレス化やテレワーク環境の構築など、ワークスタイル改革を支えるツールとしてもUltrabookが最適な手段になるだろう。消費電力が低いので、電気料金の削減にも貢献するし、環境にも優しい。これは財務部を説得するときの材料にもなりそうだ。
Ultrabookのほぼ全てのモデルに、Windows 7がプリインストールされている。Windows 7なら、「XPモード」を利用すればアプリケーション資産の互換性も確保できる。Windows 7 Enterpriseなどのボリュームライセンスを利用できるし、Windows 7 Home PremiumがプリインストールされているUltrabookを導入しても大丈夫だ。マイクロソフトが用意する「Windows Anytime Upgrade」を適用して、Windows 7 ProfessionalやWindows 7 Ultimateへアップグレードすれば、XPモードを利用できる。これなら業務部門から問い合わせが少なくて済むかもしれない。
Windows XPをずっと使い続けてきた企業なら、次のクライアントPCもできる限り長く使いたいと考えるだろう。これはわが社も同じだ。しかし、ソフトウェアや機器は常に進化し続けていくし、業務をより良くすることにも貢献してくれる。それなら、この先の5年間も十分に活躍するスペックを備えたUltrabookを、新しいクライアントPCとして導入してみたい。わが社の明るい未来をつかみ取るためのベストチョイスだと確信したのだ。
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