三者三様のWindows AzureパートナーシップWeekly Memo

日本マイクロソフトが4月、クラウド事業でNEC、日立製作所と相次いで提携した。この動きからWindows Azureパートナーシップのありようについて考察したい。

» 2012年05月01日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

マイクロソフトとNEC、日立が相次いで提携

 日本マイクロソフトが4月6日にNEC、同13日に日立製作所と、クラウド事業で提携したと発表した。同分野ではすでに富士通とも提携済みであることから、マイクロソフトとしてはここにきて国内IT大手3社とクラウド事業での協業態勢がとれるようになった格好だ。ただ、提携内容は三者三様のようだ。

 NECとの提携内容は、大企業向けの業種別クラウド事業で協業を拡大するというものだ。第1弾として、コミュニケーション・コラボレーション分野でビジネス協業を行う。従来から取り組んできたソリューション事業での協業を同分野でのクラウドビジネスに拡大し、両社共同で企業の機動力・事業継続性・グローバル競争力などの強化を支援するのが狙いだ。

 第1弾の協業は、NECのExpressサーバやUNIVERGE製品などとマイクロソフトのExchange Server、SharePoint Server、Lync Serverなどを組み合わせたソリューションを開発し展開する。また、そのソリューションを活用したうえで、NECの持つ業種・業務向けパッケージ製品、SIノウハウなどを連携させ、多様なニーズに応じた「ワークスタイル変革ソリューション」を順次提供していく構えだ。

 日立製作所 執行役常務 情報・通信システムグループ 情報・通信システム社 プラットフォーム部門CEOの佐久間嘉一郎氏(左)と日本マイクロソフト社長の樋口泰行氏 日立製作所 執行役常務 情報・通信システムグループ 情報・通信システム社 プラットフォーム部門CEOの佐久間嘉一郎氏(左)と日本マイクロソフト社長の樋口泰行氏

 一方、日立との提携内容は、日立のクラウドソリューション「Harmonious Cloud」とマイクロソフトのパブリッククラウドサービス「Windows Azure Platform」(以下、Windows Azure)を連携させて、ユーザー企業が国内外で同じ業務環境を構築できるようなハイブリッド型のクラウド基盤を提供するというものだ。国内にある日立のデータセンターと海外にあるマイクロソフトのデータセンターをつないで業務アプリケーションを移行できるようにすることで、国内企業のグローバルな事業展開を支援するのが狙いだ。

 日立と日本マイクロソフトは共同会見で、基幹システムへのクラウド導入が進む中で事業をグローバル展開している国内企業には、「Windowsベースの既存IT資産を有効活用したい」「海外に業務データを置きたくない」「グローバルベースのクラウドを活用した場合の現地サポートが心配」といった、IT投資効率の向上や安全・安心なクラウド利用に関する課題があると指摘。今回の提携はそうしたニーズに対応したものだと強調した。

 上記の2つの提携におけるさらに詳しい内容は、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、ここでは今回、日立との関係が明らかになったマイクロソフトのWindows Azureパートナーシップをめぐる動きに注目したい。

Windows Azureのユニークな協業形態

 マイクロソフトがWindows Azureパートナーシップにおいて、有力なITベンダーとどのような協業形態をとるか。筆者はかねて、この点に注目していた。なぜならば、マイクロソフトのWindows Azureパートナーシップには、クラウド事業戦略として他にはないユニークな協業形態があるからだ。

 ユニークな協業形態とは、マイクロソフトがWindows Azureにおいて富士通、米Hewlett-Packard(HP)、米Dellと戦略的提携を結び、同プラットフォームを運用できるシステム基盤を開発するとともに、3社のデータセンターからそのシステムを活用したクラウドサービスを提供できるようにしていることだ。

 マイクロソフトが3社と戦略的提携を結んだのは、Windows Azureの実行環境として同社が提供する「Windows Azure Platform appliance」を組み込む形になるPCサーバのグローバルシェアにおいて、上位を競うのがこの3社だからだ。さらに、3社とも自社のデータセンターのグローバル展開に注力している。その展開力が、マイクロソフトにとってはWindows Azureを普及させるうえで必要になると見ているようだ。

 その中でも、マイクロソフトはHPやDellに先行して、富士通との協業サービス展開を2011年6月に発表。両社の緊密ぶりが目立った。その経緯や協業内容については、これまでも本コラムなどでたびたび取り上げてきたので、ぜひ関連記事を参照いただきたい。ちなみに富士通の国内データセンターから提供されているWindows Azureを採用したクラウドサービス「Fujitsu Global Cloud Platform FGCP/A5 Powered by Windows Azure」(略称、FGCP/A5)には、すでに多くの顧客企業が名を連ねている。

 こうしてみると、Windows Azureパートナーシップにおいては、マイクロソフトにとって富士通が特別な存在であることは明らかだ。富士通にとってもWindows Azureを担いでグローバルなクラウド事業に打って出ようという野望がある。

 これに対し、今回提携を発表した日立がWindows Azureパートナーシップで目指しているのは、グローバルに対応したハイブリッドクラウドサービスの実現だ。同社執行役常務 情報・通信システムグループ 情報・通信システム社 プラットフォーム部門CEOの佐久間嘉一郎氏は会見で、「両社のクラウドの長所を掛け合わせて、さらに相乗効果を狙えるのがハイブリッドクラウドだ」と力を込めた。

 ただ、富士通と同様形態のサービスを提供する考えはないかと問うたところ、佐久間氏は「まずは今回発表した形態からWindows Azureを活用していく」と回答。筆者には含みのあるコメントのように聞こえた。

 一方、NECは今回の提携発表を含めて、これまでWindows Azureパートナーシップについては一切、明らかにしていない。ただ、今回の協業形態が深化していけば、Windows Azureを利用することになるのは明らかだ。

 今回、垣間見えてきたWindows Azureパートナーシップにおける三者三様の協業形態。NECの動きをはじめとして、今後も注目点は至るところにありそうだ。

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