日本マイクロソフトの新しい品川本社オフィスとICTインフラは、これらの分析を踏まえて設計されました。まず、無駄になっている60%のデスクをより有効な投資に回します。
モビリティの高い営業部門を中心に「フリーアドレス制度」を導入し、席数と面積を削減しました。現在フリーアドレスの対象となっているのは全従業員の60%程度、そのうち80%分の席のみ用意しています。削減されたスペースは、通路を広くして開放感を高めたり、Face-to-Faceの効率を上げるための仕掛けに活用します。
固定席もありますが、ハイパーテーションやオーバーヘッドロッカーを廃止し、見通しをよくしました。通路の面積を増やして開放感を上げるとともに、動きまわりやすさを向上させています。デスクでの荷物スペースがなくなった分は、壁際のチェストや暗証番号式のカギのついたロッカーでカバーしています。
さらに50人当たり1カ所の割合で、「Hub スペース」と呼ばれる透明なアクリル板に仕切られた、予約なしで気軽に集まれるオープンスペースを用意しました。近隣の部門に利用方法をあらかじめ選択させ、その要望にあわせてスペースを設計しています。テーブルや椅子、モニターやホワイトボードなどを設置した簡単な打ち合わせ場所になっているスペースが多いのですが、カウンターテーブルに電子レンジやコーヒーメーカーなどを設置して、息抜きの場所として活用している場合もあります。Hub スペースはその名の通り、近隣の従業員同士がつながるハブとして利用されているのです。
Hub スペース以外にも、1〜2人用の「Phone Booth」や4〜5人用の「Focus Room」があり、これらについては予約できる部屋とできない部屋の両方を用意しています。また各フロアに2カ所、無料のカップベンダーを設置しているコーナーがあります。モニターや電源が設置されたテーブルやソファーなどが置かれているので、よりカジュアルな打ち合わせに向いています。
ここ数年でICTは格段に進化しました。とはいえ、Face-to-Faceが最もリッチなコミュニケーション手段であることに変わりはありません。就業時間の60%はオフィス内にいるのなら、もっと簡単にFace-to-Faceができるような環境を提供すべきと考え、Hub スペースに代表されるカジュアルな共有スペースを作りました。
共有スペースが増えたことで、従業員は必要に応じて必要な時間だけ集まってコミュニケーションを取れるようになりました。予約制の会議室もありますが、稼働率が格段に下がっています。実はこれが、非常に大きなインパクトを生産性に与える変化となりました。
どのオフィスでも社内会議室の確保には、頭を悩まされていることでしょう。われわれも旧本社時代は会議室の稼働率が100%に近く、会議の開催は出席者よりもむしろ会議室の予約状況に左右されており、意思決定を遅らせる原因になっていました。
また、会議室を1時間おさえると、本題が15分で終わってもきっかり1時間使い切りたくなるものです。さらにやっと取れた会議室ともなれば、多少関係の薄い人も招集してしまい、その人にほぼ無駄な1時間を過ごさせることになります。
しかし、わざわざ会議室を予約しなくても気軽にディスカッションできるようになれば、中心メンバーのみで頻繁に短い議論を重ね、最終的な意識合わせのためにのみスケジュールを設定するように会議のやり方が変わります。ディスカッションの密度も合計時間も増えるため、より質の高い意思決定ができますし、なにより戦略実践のタイミングが会議室のスケジュールに依存するなどという本末転倒な事態を避けられます。
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