新境地を開くマイクロソフトの文教ビジネスWeekly Memo

日本マイクロソフトが先週、立教大学と結んだ教育連携協定は、同社の文教ビジネスとして新境地を開く取り組みといえそうだ。

» 2012年06月04日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

立教大学と教育連携協定を締結

 立教大学と日本マイクロソフトが5月28日、世界のビジネス現場で活躍できる人材の育成を目指した学生向けのカリキュラム「立教型ビジネス基礎講座」を共同開発すると発表した。同日、立教大学の吉岡知哉総長と日本マイクロソフトの樋口泰行社長が記者会見し、教育連携協定を結んだ。

 具体的には、まず両者で共催する連続公開講座プログラムを共同で開発し、6月から7月にかけて立教大学にて日本マイクロソフト社員による連続公開講座「考える技術・伝える技術〜立教型ビジネス基礎講座〜」を計5日間開く。

 「ビジネスの課題を見つけ出し解決する」「説得力のあるプレゼンでビジネスに勝つ」などをテーマとしたこの講座で提供されたコンテンツは、立教大学の監修の下で日本マイクロソフトが「立教型ビジネス基礎講座」としてeラーニング化し、マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Windows Azure Platform」上で展開していく予定だ。

 立教大学はこの仕組みに基づき、2013年度から本格開講するにあたって、同講座のカリキュラムを体系化する計画。さらに、日本マイクロソフトが立教大学の学生をインターンシップ生として受け入れるなど、講座だけでなく実際のビジネスで学ぶ機会も提供するとしている。

 今回の連携は、立教大学が今春、約2万5000人の全学生・教職員を対象に、日本マイクロソフトの提供する教育機関向けライセンス「EES(Microsoft Enrollment for Education Solutions)」などを採用し、学生がビジネスの現場と同じ最新のソフトウェアを活用して学べる教育環境を大幅に増強したのがきっかけ。その環境を最大限に活用した新たな人材育成の手法を開発・実施することで、両者の思惑が一致した形だ。

 日本マイクロソフトによると、これまでの大学との連携は、特定の学部や研究室との間であったり、技術領域にとどまるなど範囲が限られており、今回のように全学部共通の講座を大学と共同で開発し、eラーニングシステムまで構築するといった大規模なものはグローバルでも初めてという。

 記者会見に臨む立教大学の吉岡知哉総長(左)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長 記者会見に臨む立教大学の吉岡知哉総長(左)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長

新しい形の文教ビジネスモデル

 会見に臨んだ立教大学の吉岡総長は、「今回の連携で強調している“ビジネス”というのは、企業活動に限ったことではなく、人間が社会生活を営むための基礎的な技術に焦点を当てたものだ。それは、目まぐるしく変化する現実を的確にとらえて整理し、そこから新しいものを創り出していくうえで欠かせない技術である。講座のタイトルに“考える技術・伝える技術”と銘打ったのは、そうした思いからだ」と力を込めた。

 続いて日本マイクロソフトの樋口社長も、「いま日本にとって、世界のビジネス現場で活躍できる人材の育成は、これまでにも増して強く求められている。その意味では、民間のグローバル企業であるマイクロソフトがお役に立てるところがあるのではないかと思っている。大学との連携でこれほど大規模なのは初めてだが、必ず成功させたい」との意気込みを語った。

 今回の連携で注目されるのは、両者が持つさまざまなノウハウを基に、クラウドやeラーニングに代表される最新技術を駆使した「バーチャル」と、実際の講座開設や人的リソースの投入、インターンシップなどの「リアル」の両面を組み合わせたことだ。

 しかも「バーチャル」としてeラーニング化したコンテンツは、「1講座ごとの内容もさらに細分化してモジュール化し、自由に組み合わせられるようにして、カリキュラムを柔軟に作成できるようにする」(日本マイクロソフト業務執行役員 文教ソリューション本部 中川哲本部長)という。

 さらに中川氏は「リアル」の強化策としても、「今後はカリキュラムの中に、ディスカッションの場を設けることなども検討したい。その際には、Web会議システムなどのコラボレーションツールも有効活用できると考えている」と語った。

 こうした「バーチャル」と「リアル」の組み合わせは、マイクロソフトの文教ビジネスにとっても新境地を開く取り組みとなりそうだ。

 会見で配布された発表文の最後はこう締めくくられていた。

 「両者では、今回の取り組みの成果はビジネス分野にとどまることなく、アカデミックの分野でも発揮されるものと期待しており、今後eラーニング化したコンテンツを他大学にも提供することで、日本全体における国際社会で通用する人材育成に貢献していきたいと考えている」

 この連携の仕組みは、eラーニング化したコンテンツが充実してくれば、また新たなソリューションが生まれてくるような気がする。まずは当の受講生たちがどのような反応を示すか。ちなみに6月2日に行われた初回の講座は盛況で、日本マイクロソフトの講師の話を熱心に聞き入る姿が目立った。新しい形の文教ビジネスモデルとして大いに注目しておきたい。

 6月2日に行われた初回のビジネス基礎講座の様子 6月2日に行われた初回のビジネス基礎講座の様子

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