ユニークなITサービスで音楽界を盛り上げ 英Songkick(1/2 ページ)

ケンブリッジ大学の音楽好き3人が立ち上げたベンチャー企業は、自らの不満に着目し、ビジネスに転換させた。

» 2012年07月11日 08時00分 公開
[末岡洋子,ITmedia]

 CDの売り上げは頭打ち、レコード業界は違法ダウンロード対策に躍起になるなど、昨今の音楽業界には明るい話題が少ないように見える。だが、ミュージシャンは日々音楽を生み出しており、それを心待ちにするファンがいるという点では以前と何ら変わりはない。

 デジタルと音楽が交差する中でさまざまなビジネスが生まれつつあるが、コンサートチケット情報の提供と販売というユニークな立場から、ミュージシャンとファンをつなぐ架け橋を目指すのが英Songkickだ。

 欧州のベンチャーとしては初めて、米国のベンチャーキャピタル、Sequoia Capitalの投資を受けることが決定し、Songkickは有望なベンチャー企業として注目を集めている。今回、英国のシリコンバレーといわれるイーストロンドンにあるSongkickのオフィスを訪ね、同社CTO(最高技術責任者)のダン・クロウ氏に、同社が目指す方向性などを聞いた。

コンサート情報を一元化したい欲求で創業

英Songkickのダン・クロウCTO 英Songkickのダン・クロウCTO

 世界的に音楽CD市場は縮小傾向にある。IFPI(国際レコード産業連盟)が発表した世界の録音音楽市場報告書によると、2011年のCD売り上げは前年比8.7%減少し101億ドルとなった。CDの売り上げは1999年の286億ドルをピークに下降が続いている。その代替として期待されるのがデジタル音楽だが、2011年は8%増加し52億ドル。少しずつ増えてはいるが、CDの売り上げ減少を補うレベルではなく、録音音楽全体の市場は毎年縮小している。

 だが音楽に触れる方法はCDやデジタル音楽だけではない。コンサートやライブがある。音楽ベンチャーというとストリーミング配信を手掛けるスウェーデンのSpotifyや、インターネットラジオの英Last.fm(米CBSが買収)などが知られるが、Songkickはまさにこのコンサートおよびライブを主力事業とする。減少するCD市場に対してライブ音楽市場は好調だ。クロウ氏も、「ミュージシャンは概して(CD販売に比べて)ライブ音楽からの収益を増やしており、重要度が高くなっている」と市場を説明する。

 Songkickは英ケンブリッジ大学の音楽好きな学生3人が2007年に設立したもので、発端も学生らしく「コンサート情報をタイムリーに得られない。一元的に集めることはできないか」という自らの不満点からスタートした。インターネット上にコンサート情報はたくさんあるが、MySpaceなどのアーティストの個人ページをチェックしたり、コンサート会場のWebサイトを見たりするなど、当時はばらばらに調べるしかなかったのだ。

 SongkickはWebを巡回してコンサート会場の情報を収集、適切な人にその情報を提供する。知名度が上がってきたことから、最近はアーティストや所属事務所から直接寄せられるデータの比率が増えているとのことだ。もう1つ増えているのが、ユーザーが直接コンサート情報を提供するパターンで、約10%は情報提供機能を使ってユーザーがSongkickに伝えているという。現在、登録しているユーザーは約500万人。世界で2番目のライブ音楽チケット販売サイトとなっている。広告費は一切持たないというから、これら500万人のユーザーはすべて口コミで獲得したことになる。

 SongkickのWebサイトからユーザー登録を行うと、自動的にPCにある音楽ライブラリをスキャンして好みのアーティストやテイストを分析してくれる。ブラウザ側の位置情報データを使ってユーザーの場所を識別し、ユーザーが好きなミュージシャンが近くでコンサートを行う際はその情報をメールで知らせる。これが基本的なサービスとなる。これにより、ユーザーは自分の好きなアーティストのコンサートを見逃すことがない。

 Facebookや位置情報サービス「Foursquare」との連携もある。アカウントを連携可能に設定するとFacebookの場合は登録している好きな音楽などから好みのバンドやミュージシャン情報を取得し、Foursquareはコンサート会場のチェックインが可能となる。これらに加え、友人をコンサートに招待したり、ほかのアーティストを推薦したりする機能もある。「かなりの高い確率で好きなアーティストを推薦できる。新しい音楽を発見するきっかけになっている」とクロウ氏は胸を張る。

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