ユニークなITサービスで音楽界を盛り上げ 英Songkick(2/2 ページ)

» 2012年07月11日 08時00分 公開
[末岡洋子,ITmedia]
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サービス利用でコンサート参加回数が7割増

 ビジネスモデルは、チケット販売の仲介。最大手の米Ticketmasterなどのチケット販売業者とアフィリエイト契約を結んでおり、チケット販売の売り上げの一部を受け取ることになる。

チケット販売アプリのイメージ画面 チケット販売アプリのイメージ画面

 ユーザーの中には、コンサートに行く回数が年に1回という人もいれば、週に1、2回行く人もいるとのこと。クロウ氏によると、ユーザーは平均すると週に1〜2回、Songkickからコンサート情報のメールを受け取っているという。そして、Songkickに登録する前と後ではコンサートに足を運ぶ回数は大きく変化し、「平均で70%増えている」とのことだ。

 現在、強化しているのがモバイル対応で、iPhoneアプリを2011年夏にリリース、そして今年6月12日に待望のAndroidアプリを公開した。モバイルアプリでもPCサイトと同様に、端末側の音楽ライブラリから情報を収集し、プッシュ通知でコンサート情報を知らせる。アプリという点では2011年秋、Spotifyプラットフォーム上で動くアプリも公開し、登録ユーザーを一気に10万人増やした。

 ビジネス面ではチケット販売以外にも、動画配信サービス「YouTube」や音楽レーベルのUniversal Musicなどと提携して自社のコンサート情報をフィードしている。例えば、YouTubeの公式チャネルなどでアーティストが自分のコンサート情報を提供するなどの形で利用されており、APIの公開だけでなく、利用を簡単にするウィジェットの提供も行っているとのことだ。「人々がオンラインで音楽に触れる場所でプレゼンスを持ちたい」とクロウ氏。今後もこのような提携は増えそうだ。

過去のコンサートで意気投合も

 ビジネスとは直接結び付かないが、Songkickでは膨大な過去のコンサート情報も公開しており、ユーザーは自分が過去に行ったコンサートを他人に知らせることができる。「音楽は自己表現の1つで、自分のテイストを知らせる方法だ」とクロウ氏は話す。過去に行ったコンサートからその人の好みが分かるし、同じコンサートに行ったことを知れば仲間意識も強まりそうだ。この取り組みはコミュニティー活動のようにも見えるが、Songkick自身はコミュニティーに拡大する予定はない。「Facebookなど既存のコミュニティーがある。われわれはそのようなコミュニティーを知らないユーザーにコミュニティーの存在を知らせること、参加を奨励することが役割だと考えている」とクロウ氏は説明する。

 登録されているコンサートはマドンナやレディー・ガガなどのように、世界で大規模なツアーを行う有名なミュージシャンもいれば、地元のライブハウスでギグを行うバンドまでさまざま。ジャンルもロック、ポップス、ジャズ、クラッシックと多岐にわたる。「あるバンドが回を重ねるごとに大きなホールでコンサートをするようになる経緯が分かることもある。バンドが成長する過程、ファンが増加する過程が見える」(クロウ氏)など、Songkickに蓄積されていくデータは貴重な情報になりそうだ。

 Songkickはこれまで、初期段階のベンチャー支援で知られるベンチャーファンドのY CombinatorやIndex Venturesの投資を受けてきた。今年春に発表したSequoiaが参加しての新投資ラウンドにより、新たな事業拡大も計画しているという。今後の事業拡大について聞くと、「当面のフォーカスはユーザー数の拡大、地理的拡大とモバイルの強化」とクロウ氏の口は堅いが、年内に何らかの大型発表も期待できそうだ。

 なお、地理的拡大では世界第2位の音楽市場である日本をもっと強化していきたいという。モバイルでは、Androidアプリによりモバイルユーザーの数が飛躍的に増えると期待する。「現在のトレンドが続けば、2013年にはモバイルがメインになるだろう」とクロウ氏は予想しており、今後モバイルならではの機能開発も進めるという。クロウ氏は業界全体を振り返り、「インターネットで音楽業界は大きく変わった。だが音楽そのものは変わっていない。技術が音楽業界の改善を支援できるだろう」と述べる。

 最終目標は「映画に行くような感覚でコンサートに行くこと」とクロウ氏は強調し、「素晴らしいコンサートやライブ体験は人生を変える。コンサートはソーシャルな活動でもあり、友達と体験したコンサートは人生を豊かにする」と続ける。Songkickは社員が全員ライブ音楽好きであり、コンサートに行く人が増えることはSongkickのビジネスが拡大するということ以上に、ライブ音楽という素晴らしい体験をするユーザーが増えることが嬉しいのだと目を輝かせた。

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