黎明期――モバイルワークが誕生した最初の一歩モバイルワーク温故知新(2/3 ページ)

» 2012年07月12日 08時00分 公開
[池田冬彦,ITmedia]

携帯電話をモバイルのインフラにした「iモード」

 3Gサービスに先立って、モバイル通信の歴史の中では決して見逃せない重要な出来事が起こっている。NTTドコモが1999年2月から開始した「iモード」だ。iモードは、「音声通話を行う機械」たる携帯電話を情報端末として活用するためのサービスであり、当時としては非常に画期的だった。

 これまでに述べてきた通り、3G通信が登場した当時はノートPCを持ち出してオフィスの外で仕事をするというワークスタイルは極めて特殊であり、携帯電話網を使ってモバイルを実践するのは極めて先進的なユーザーに限られていた。

 通信料金(パケット通信料金)が高いことや、VPNやリモートアクセスといったオフィス側でのモバイルへの対応が取られていたケースも極めてまれであった。当時のワークスタイルはデスクトップPCによるオフィスワークが“常識”であり、わざわざ屋外で仕事をすることはやはり特殊だったのである。そもそも、インターネットの普及率自体が低かった。

 そのような時代にスタートしたiモードは、重たいノートPCを持ち歩くことなく、携帯電話を安価に利用できる情報通信端末に変身させた。インターネットにアクセスしてメールをやり取りしたり、Webコンテンツにアクセスして情報を入手したりできる。「ノートPC+データ通信カード」でモバイルを実践するよりも、ずっと使いやすかった。

 このようなメリットが認められてiモードは、多くのユーザーに利用されるようになり、サービス開始から1年で1000万人の利用者を数えるまでになった。サービス開始時は2G携帯の全盛期であったが、FOMAサービスの開始とともに3Gユーザーが増加し、高速にコンテンツにアクセスできる環境が整った。

 サービスやコンテンツも年々拡充していった。当初はニュースや天気予報、インターネットバンキングといった一般的なサービスやコンテンツしかなかったが、iモードのサイトは、一般的なHTMLのサブセットであり、開発が容易な「C-HTML」を採用していたことから、企業にとって参入しやすいことも大きなメリットだった。このため、さまざまなiモード向けサイトやサービスが立ち上がり、iモード向けのグループウェアなどのビジネスアプリも登場した。さらに、2004年にはパケット定額制サービスも開始され、ランニングコストもリーズナブルとなった。

 iモードサービスで最も利用されていたのは、「iモードメール」だ。海外ではSMSによるメッセージ送受信の仕組みはあったが、携帯電話でインターネットメールを使えるサービスはなかった。その意味で、iモードは世界でも先進的なサービスであり、携帯電話の役割を大きく広げたと言えるだろう。J-PhoneやKDDIもこのサービスに追従し、それぞれ「J-SKY」「EZweb」という同様のサービスを展開した。

 このように、携帯電話そのものを情報端末として活用していける土壌が整い、iモードは日本独自のモバイル文化を生み出した。携帯電話一つで作業報告やファイルの送受信が可能であり、一般的なビジネスにおいて、当時としては先進的なモバイルワークのインフラとなり得たのである。

iモードに対応した最初の端末はmova 501iシリーズ(2G)だった。まだモノクロ液晶でメニューも限られていたが使い勝手は比較的良好だった(写真はN501i)
iモード契約者の推移。当初は500万人程度だったが2000年後半から急激に伸び始め、2003年には4000万人を突破し、順調にユーザーを増やした(出典:NTTドコモ「iモードの歴史と進化(iモードサービス開始10周年)

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