こうした背景から仮想化技術を利用したサーバ統合やクラウド化の潮流が生まれたのはご存じのとおりだ。ばらばらのサイロ化された個別システムを統合し、何とか運用や保守に掛かる負担を軽減できないか、さらにはサービスとしてコンピューティング資源を提供してくれるのであれば煩雑さは解消できるのではないか。テクノロジーとはやや違うところで新たな利用モデルがもてはやされようとしている。
しかし、日本アイ・ビー・エムでシステム製品のエバンジェリストを務める北沢強氏は、「テクノロジーは今後も進化を続け、とどまるところを知らない」と話し、テクノロジーの進化に伴う量的な変化を指摘する。ムーアの法則はよく知られているが、ほかのパーツも軒並み2〜3年で倍になっている。
昨年2月、米国の人気クイズ番組「Jeopardy!」でクイズ王を打ち負かして話題となった「Watson」は、高さ4UのPower 750サーバ(32コア)を90台接続して組み上げられた。あらかじめ書籍100万冊相当のテキストを読み込んでおき、司会者の読み上げる問題を理解し、大量の情報の中から適切な回答を選択、素早く答えなければならないため、コア数は2880、ラックは10本に及ぶ。システムとしては想像以上に大掛かりだが、ムーアの法則が続けば、13年でサーバ1台、20年もすればPC1台で足りる計算だ。
また、これまでのコンピュータは、より遅いパーツがボトルネックにならないようなデザインを考案してきたが、北沢氏はネットワークの高速化に注目すべきだと指摘する。
「この10年、メモリの帯域幅が30倍になったのに対して、ネットワークのそれは1600倍に高速化し、その差が縮まっている。これまではプロセッサとメモリは同じボードに置くデザインだったが、40/100Gbpsイーサネットのネットワーク製品が続々と登場する中、それらを生かした新しいコンピュータのデザインが求められるようになる」と北沢氏。
左の図は、新しいデザインのひとつ、「Fabric-based Architecture」だ。CPUやメモリ、ディスク、ネットワークI/Oなどの資源がすべてプール化されて管理され、40G/100Gbpsのスイッチ・バックプレーンや光ケーブル接続で密連携することで、異なるCPUも含む、すべての資源を1つのコンピュータとして一元的に管理しながら、ワークロードの種類や負荷に応じて割り当てられるフレキシブルなシステムが生まれる。調査会社のGartnerでは、そんなFabric-based Architectureが将来の主流になるとみている。
IBMは2010年、これまでのメインフレームを大きく進化させ、Fabric-based Architecture製品に先鞭をつける「zEnterprise 196」を投入した。
z196は、Fabric-based Architectureの概念の下、ハイブリッドなシステムアーキテクチャーを採用した意欲的なメインフレーム。5.2GHzのクアッドコアプロセッサを24個(96コア)と3テラバイトのメモリを搭載するという、ゼロダウンタイムの堅牢さと垂直方向のスケーラビリティーが売り物には違いないが、むしろPower7やx86プロセッサを搭載したブレードサーバを1台のコンピュータとして集約できる「包容力」が最大の武器だろう。
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