2013年新春インタビュー

ITの“総力戦”再び――半世紀にわたる実績で挑む日立製作所2013年新春特集「負けない力」(1/2 ページ)

ITのみならず社会インフラの幅広い領域でビジネスを展開する日立製作所。「ビッグデータ」や「スマートシティ」に注目が集まる中、2013年のグローバル市場でどのような役割を目指すのか。同社ITプラットフォーム事業本部 開発統括本部長の阿部淳氏に聞く。

» 2013年01月21日 08時00分 公開
[聞き手:石森将文、構成:本宮学,ITmedia]

――2012年の振り返りをお願いします。

阿部氏 グローバル市場では欧州債務問題の長期化や中国情勢、新興国経済の低調化などによる多少の減速はありましたが、国内では復興需要や災害対策需要などもあり、全体としては堅調な1年となりました。

 注力分野の1つであるクラウドサービスは、JTなど多くの先進的なユーザー企業に導入していただけました。ユーザー自身がグローバル化や仮想化を進める中で、徐々に導入が進んできた印象です。プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせる、いわゆるハイブリッドクラウドの実績も出てきました。

photo 日立製作所 情報・通信システム社 ITプラットフォーム事業本部で開発統括本部長を務める阿部淳氏

 もう1つ注力分野として取り組んだのは「ビッグデータ」です。ビッグデータについては、やりたいことがはっきり決まっている企業と、データはあっても何をすればいいか分からない企業、そもそもやりたいことが分からない企業というように、顧客層が大きく3タイプほどに分かれてきました。そうした中、2012年はさまざまな製品やサービス、ソリューションの体系化に注力しつつ、ユーザーと一緒に課題を考える「データ・アナリティクス・マイスター」という人材の育成、組織化にも力を入れた1年でした。

 また4月には、サーバ、ストレージ、ソフトウェアそれぞれの担当部門を「ITプラットフォーム事業本部」として統合しました。これは、従来のような1つ1つの単品ビジネスから「顧客の価値をどう生み出すか」にビジネスをシフトさせる当社の戦略の一環です。

――組織が大きく変わり、7月には新オフィスも構えました。それによる変化はありましたか。

阿部氏 変化は大きかったですね。もともと日立のコンピュータ事業が始まったのは今から約50年前ですが、その数年後にストレージ部門が分かれ、次にソフトウェア部門が分かれていたのを、(今回の再編で)数十年ぶりに統合した形になります。

 言い換えると、メインフレーム時代の一極集中型モデルがクライアントサーバ時代になって分散していたのが、クラウドをキーワードに再び1つになりました。クラウドはサーバ、ストレージ、ソフトウェアの全てで構成されるものですから、組織統合をきっかけに、メインフレーム時代の初期のようにプラットフォーム全体で総力を挙げてやっていきます。

――2012年のIT市場では、データを活用して価値を生み出そうとする動きに注目が集まりました。ユーザー企業の課題感にも変化はありましたか。

阿部氏 リーマンショック後はコスト削減に対する根強いニーズがありましたが、ユーザーにとっては、製品やサービスの「価格」で勝負するか「付加価値」で勝負するかの2択しかありません。しかし価格勝負には限界がありますし、ビジネスの成長につながりにくいため、自然と付加価値で勝負するようになってきています。

 では、付加価値をどのように生み出すかというと、データ分析によって何に注力すべきかを見出すといったことが、1つの潮流になりつつあるのを感じます。ユーザーと話をしていても、やはり価格勝負になりたくない、あるいは(競合との価格競争に)入っている中でも勝ち抜きたいという声を多く聞きます。

 ビッグデータを単なる“流行りもの”と認識するユーザー企業も過去には多くいましたが、最近では「競争に勝ち抜きたい」「ライバルがこう来るならうちはこうしたい」「微妙な“差”を持っているデータを世の中のデータから見出したい」というニーズが素直に出てきたと感じています。

――ビッグデータ関連ソリューションを提供する上で、競合他社にはない日立の強みは何でしょうか。

阿部氏 日立が力を入れているのは「UX」(ユーザー経験価値)です。“物売り”として数を売る、ということではなく、個々のお客さんに注目して顧客価値を上げていくことが非常に重要だと認識しています。

 当事業本部では3〜4年ほど前からUXに着目し、注力する方針を打ち出してきました。まず初めにUX向上に取り組んだのは、ストレージの運用管理ソフトウェアです。当社のデザイン研究所のスタッフや技術者を、グローバルでストレージ製品の販売を担当している日立データシステムズの米国オフィスに向かわせ、米国市場でのストレージ運用管理に関するニーズをヒアリングしたり、ユーザーの使い方を観察したりして製品を作り上げました。

 こうしたUX向上に取り組んでいたのは当初ソフトウェア分野だけでしたが、今では事業所全体に広がっています。さらに昨年の組織再編をきっかけに、運用管理やビッグデータのみならずハードウェアを含めた全体に取り組みを拡大しました。それが「Hitachi Unified Compute Platform」などの統合プラットフォーム製品にも生きてきています。

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