PaaSはロックインが常識? TOSCA標準で実現近づくクラウドの相互運用性(1/2 ページ)

企業にとってクラウドの本命は「PaaS」。相互運用性がないことから採用に踏み切れない企業が多いが、OASIS TOSCA標準仕様のリリースによって「PaaSはロックイン」という常識は早晩過去のものになりそうだ。

» 2013年05月14日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]

 「ヒト」だけではなく、「モノ」までもが刻々とデジタル情報を生み出そうとする中、企業はそれらを活用するテクノロジーを模索している。「モバイル」「ソーシャル」「ビッグデータ」、そして「クラウド」という4つの大きなITの潮流が俄然脚光を浴びているのはそのためだ。単体でももちろん、その掛け合わせならなおさら、企業の製品やサービスを劇的に変革する力を秘めている。

 しかし、企業にはそれまでの歴史を象徴するかのように複数世代にわたって築き上げてきた既存の情報システムがあり、一筋縄ではいかない。顧客と緊密なつながりを築くことができる「エンゲージメント」のための新しいシステムとして、モバイルやソーシャルを柔軟に組み合わせたり、得られた洞察から顧客中心でビジネスプロセスを見直していくには、既存の基幹システムが整理整頓されている必要がある。やや「人気」がすたれてしまった「SOA」の重要性については別の機会に譲るとして、エンゲージメントのための新しいシステムと「記録」中心の既存システムを上手く柔軟に連携させていく基盤としてはクラウドが適しているのは確かだ。

 言うまでもないが、クラウドの恩恵はコスト低減だけではない。素早くITリソースを用意できるほか、あらかじめピークを見越したサイジングの必要もない。負荷に応じてリソースを増やせる「迅速さ」や「柔軟さ」が最大の売り物だ。

 モバイルやソーシャルでは不特定多数の顧客をユーザーとするため、クラウドの出番となる。こうした新しいアプリケーションでは、いわゆる「要件定義」が難しいからだ。やや乱暴だが、仮説に基づいて取り敢えずコストを抑えつつサービス提供を始め、ユーザーの反応を見ながらより良いものへと短いサイクルで改善していく方が、ユーザーや市場のニーズをつかみやすい。こうしたやり方は、起業家の世界でも「リーン・スタートアップ」というマネジメント手法として知られているらしい。

ベンダーロックインを嫌う企業はPaaSに対して懐疑的

 しかし、こうした場合、気をつけなければならないのが、「PaaS」の相互運用性だ。Salesforce.com、Amazon、Google、MicrosoftなどがPaaSを提供しているが、乗り換えるのが容易ではないからだ。Webサーバやアプリケーションサーバ、データベースというミドルウェア群まで含めてサービスとして用意するのはもちろん、各社のPaaSでは負荷分散や自動拡張/縮退など、運用面の負荷を軽減してくれる機能も提供しており、その恩恵は非常に大きいのだが、ベンダーロックインを嫌う企業はPaaSに対して懐疑的でなかなか踏み出せないでいる。

 「SalesforceのようなPaaSは、半ば囲い込まれることが常識となっているが、実際の企業の環境は異種混在だ。企業が本格的にPaaSを活用するようになればなるほど、パブリッククラウドからプライベートクラウドまでさまざまなクラウド環境をつないだり、相互に運用性を確保していくことが重要になる」と話すのは、日本IBMでクラウドソリューションを担当する紫関昭光理事だ。

 もちろん、ハードウェア、OS、およびネットワークをサービスとして提供するIaaSであれば、そのインフラの上にミドルウェアやアプリケーションを構築し直せばいいのだが、膨大な工数が掛かり、せっかくのクラウドもその恩恵は部分的なものにとどまる。通常、システムは複数のサーバを組み合わせて構築される。そのトポロジー情報や、負荷分散、自動拡張/縮退といった運用のための情報も含めてそのままクラウドに移せることが望ましい。開発生産性や効率を考えれば、やはりPaaSを選択したいところであり、その相互運用性は欠かせない。

 実際、IBMでは、同社のパブリッククラウドから、PureFlex/PureApplicationなどで構築したプライベートクラウドまで相互運用性を確保している。ミドルウェアはもちろん、アプリケーションまで含めた構成情報や運用ポリシー情報を「パターン」として定義し、プライベートとパブリックのあいだを行き来させることができるという。

 「課題はIBM以外の環境をどうするか? ユーザーはベンダーロックインを懸念している」(紫関氏)

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