Oracleが先週、Microsoftおよびsalesforce.comと相次いでクラウド事業における提携を発表した。クラウド市場の勢力争いが大きく動き始めたことを示唆しているといえそうだ。
米Oracleが先週、米Microsoftおよび米salesforce.comと相次いでクラウド事業に関する新たな提携を結んだと発表した。とりわけOracleとMicrosoftは、企業向けソフトウェア市場で激しく競合してきた宿敵同士だけに、今回の動きは大きな注目を集めた。
OracleとMicrosoftが提携を発表したのは6月24日(米国時間)。内容は、現在Windows Server上でOracle製品を使っている顧客に対し、Oracleが同じ製品についてMicrosoftの仮想化プラットフォーム「Windows Server Hyper-V」とクラウドサービス「Windows Azure」での利用を認証・サポートするといったものだ。
MicrosoftはWindows Azureのインフラサービスにライセンス済みのOracle製品で構成するインスタンスを追加する。また、Windows AzureでOracle Linuxを利用できるようにもするとしている。
さらに詳しい提携内容については関連記事を参照いただくとして、基本的には「Windows環境でOracle製品を利用するユーザーに対し、カバーする範囲をクラウドにも広げた」との解釈でいいだろう。これによって、OracleはWindowsユーザーに自社製品を引き続き拡販できる一方、Microsoftは自社のクラウドサービスの利便性を向上することができるというわけだ。
今回の両社の提携について、Microsoftのスティーブ・バルマーCEOが電話会見でこんなコメントを残している。
「両社は顧客のニーズに応えるべく、これまで世間の目に触れないところで長年協力してきた。だが、クラウドの世界では、舞台裏の協力だけでは不十分だ」
つまりは、両社はもっと表舞台で協力すべきということか。その思惑がどこにあるのかは、後ほど紐解いてみたい。
一方、Oracleとsalesforce.comが提携を発表したのは6月25日(米国時間)。内容は、salesforce.comがOracleのプラットフォームを採用する一方、Oracleが自社アプリケーションにsalesforce.comのサービスを統合するといったダイナミックなものだ。
こちらもさらに詳しい提携内容については関連記事を参照いただくとして、ここではOracleのラリー・エリソンCEOとsalesforce.comのマーク・ベニオフCEOが異口同音に語ったコメントを紹介しておきたい。
「私たちはお互いのクラウドを統合させる必要があると確信している」
このコメントだけで、両社の提携のダイナミックぶりがお分かりいただけるだろう。
さて、Oracle、Microsoft、salesforce.comといった有力なクラウドベンダーが相次いで提携に動いた背景には何があるのか。
今回の提携の中心となったOracleの立場としては、日本オラクルの遠藤隆雄社長が6月27日、同社が開いた2013年5月期の決算説明会の中でこう語っている。
「今回のMicrosoftおよびsalesforce.comとの提携は、両社にOracleのクラウドプラットフォームの価値を認めていただいた結果で、今後Oracleのテクノロジーがクラウドの主流になっていくことを印象づける出来事だったと受け止めている」
確かに、Oracleにとってはクラウド事業に弾みがつく、というより弾みをつけるための相次ぐ提携だろう。
だが、今回の相次ぐ提携は、筆者から見ると、3社の強い危機感の表れのように思えてならない。何に対する危機感かといえば、米Amazon.com傘下のAmazon Web Services(AWS)がこのところ企業向けクラウド市場で非常に勢力を伸ばしつつあるからだ。
AWSはIaaSを軸に伸びてきたが、プライベートクラウドでも幅広く適用されるようになり、今ではクラウド市場全体に影響を与える存在になってきているとの印象がある。その核心は何と言ってもコストパフォーマンスの高さにある。
今回の3社の中では、とりわけMicrosoftがAWSを強く意識しているとみられる。AWSの勢いを放置しておくと、IaaSにとどまらずPaaSもAWS上で利用するユーザーの流れが止められなくなってしまうとの強い危機感があるのではなかろうか。従ってMicrosoftからすれば、今回のOracleとの提携もそのための道具立ての充実を図ったものと受け取れる。
そう考えていくと、クラウドベンダーにとって最も重要なポイントに行き着く。それは、IaaSであれPaaSであれSaaSであれ、もしくはそれらを組み入れた形のプライベートクラウドであれ、自前のデータセンターから顧客に直接サービスを提供して、顧客から直接料金を徴収できる仕組みを構築できるかどうかだ。これがすなわち、垂直統合型ビジネスの基盤である。
その意味で今回の提携を改めて見ると、Microsoftは自らの垂直統合型ビジネスの基盤強化を図った形だ。Oracleはそのためのテクノロジーを提供した格好となる。ただ、先ほど紹介したMicrosoftのバルマーCEOのコメントからすると、両社の関係をもっと深めていかないと、クラウド市場で主導権を握れないとの危機感があるのではなかろうか。いつも強気の同氏が「舞台裏の協力だけでは不十分」と語るのは、そんな強い思いの表れといえるだろう。
一方、Oracleとsalesforce.comの提携はどうか。今回の発表ではsalesforce.comのクラウドサービスの強化にOracleがテクノロジーを提供したことがメインのように受け取れる。ただ、両社トップのコメントからすると、将来的にはまさしく統合の方向へ向かうのではないか。クラウドの世界を牽引してきたsalesforce.comだが、独自路線の限界が遠からず来るのではないかとの見方もある中で、ベニオフCEOは大きな決断をしたように見受けられる。
今回の提携の動きを受けて、他の有力なクラウドベンダーは果たしてどのような戦略展開を図ってくるか。クラウド市場の広がりはまだまだこれからが本番なだけに、さらにダイナミックな合従連衡の動きが出てくる可能性は大いにある。その意味で今回の相次ぐ提携は、クラウド市場の勢力争いの本格的な幕開けを告げる動きなのかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.