OracleとMicrosoftがPaaS市場で真っ向勝負Weekly Memo

OracleとMicrosoftが先週、相次いでクラウド事業の強化を発表した。とくに注目されるのはPaaS分野の動き。両社とも強みとする分野だけに、真っ向勝負となりそうだ。

» 2012年06月11日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

Oracleがパブリッククラウドサービスに本格参戦

 まずは米Oracleの動きから。同社は6月6日(米国時間)、パブリッククラウドサービス「Oracle Cloud」を発表した。

 Oracle Cloudは、PaaS型サービス「Oracle Platform Services」、SaaS型サービス「Oracle Application Services」、ソーシャルサービス「Oracle Social Services」からなり、データベース専用機「Oracle Exadata」およびアプリケーション開発専用機「Oracle Exalogic」で稼働するという。

 同社は2011年11月に「Oracle Public Cloud」と銘打ってパブリッククラウドサービス構想を明らかにしていたが、今回のサービス提供開始にあたって名称をシンプルに変更したとみられる。ラリー・エリソンCEOが発表にあたって、「ついに地球上で最も包括的なクラウドサービスを紹介できる」と語ったことからも、相当の自信作であることがうかがえる。

 なかでも注目されるのは、PaaS型サービスのOracle Platform Servicesである。具体的には、リレーショナルデータベース「Oracle Database」を利用したデータの管理とデータベースアプリケーション構築や、アプリケーションサーバ「Oracle WebLogic」を利用したJavaアプリケーションの開発・展開・管理、PHPやRuby、Pythonを使ったWebアプリケーションの開発などを行えるという。

 リレーショナルデータベースやJavaアプリケーションの開発といった、まさに同社が強みとする分野の延長線上にあるPaaS型サービスだけに、オンプレミスでのミドルウェア市場と同様、大きな影響力を持ち続けたいとの思惑が強いはずだ。このOracle Cloudについては、日本でも本格的に展開される時期が間もなく来るだろう。

 ちなみに、IDC Japanが先頃発表した国内パブリッククラウドサービス市場の予測によると、2016年には2011年比5.2倍の3412億円になるとしている。とくにインフラストラクチャとアプリケーションプラットフォームが「密結合」から「疎結合」へと変わる次世代サービスアーキテクチャに基づくPaaSが本格的に発展。国内PaaS市場は2015年に1000億円規模を超え、国内パブリッククラウドサービス市場において、最大規模のセグメントになるとIDCは予測している。

 Oracle CloudおよびそのPaaS型サービスであるOracle Platform Servicesが、こうした市場にどれだけのインパクトを与えるか、注目される。

MicrosoftがWindows Azureの機能を大幅強化

 同じく今後のPaaS市場に大きなインパクトを与えるとみられるのが、米Microsoftが2010年からサービス展開している「Windows Azure」の動きだ。同社はくしくもOracleが新サービスを発表したのと同じ6月6日(米国時間)、Windows Azureの大幅な機能強化を発表。日本マイクロソフトが8日にその内容の説明会を開いた。

 それによると、新たにIaaS的な機能を追加し、Windows OSだけでなくHyper-Vの仮想マシン上でLinuxも動作できるようにしたという。また、イントラネットの延長としてWindows Azureを利用できる仮想ネットワーク機能も追加したとしている。さらに詳しい内容については、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、ここでは筆者がかねて着目してきたWindows Azureパートナーシップをめぐる動きにおけるこれまでの経緯と、説明会で聞いた同社の見解を記しておきたい。

 筆者がかねてWindows Azureパートナーシップに着目してきたのは、クラウド事業戦略として競合他社にはないユニークな協業形態があるからだ。それは、MicrosoftがWindows Azureにおいて富士通、米Hewlett-Packard(HP)、米Dellと戦略的提携を結び、同PaaSを運用できるシステム基盤を開発するとともに、3社のデータセンターからそのシステムを活用したクラウドサービスを提供できるようにしていることだ。

 つまり、Microsoftからいえば、Windows Azureサービスの運営そのものを委託する格好だ。これは取りも直さず、クラウドサービスにおけるデータの在り方を根本から変えるものである。それに伴って、流通の仕組みも大きく変わっていく可能性がある。

 Microsoftが3社と戦略的提携を結んだのは、Windows Azureの実行環境として同社が提供するアプライアンスを組み込む形になるPCサーバのグローバルシェアにおいて、上位を競うのがこの3社だからだ。さらに、3社とも自社のデータセンターのグローバル展開に注力している。その展開力が、MicrosoftにとってはWindows Azureを普及させるうえで必要になると見ているようだ。

 その中でも、MicrosoftはHPやDellに先行して、富士通との協業サービス展開を2011年6月に発表。両社の緊密ぶりが目立った。ちなみに富士通の国内データセンターから提供されているWindows Azureを採用したクラウドサービス「Fujitsu Global Cloud Platform FGCP/A5 Powered by Windows Azure」(略称、FGCP/A5)には、すでに多くの顧客企業が名を連ねている。

 日本マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部 業務執行役員 本部長の梅田成二氏 日本マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部 業務執行役員 本部長の梅田成二氏

 ただ、ここにきて気になるのは、HPやDellがWindows Azure関連事業を積極的に展開しているという話が聞こえてこないことだ。その点を含めたユニークな協業形態の進展度合いについて、日本マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部 業務執行役員 本部長の梅田成二氏に聞いたところ、こんな答えが返ってきた。

 「アプライアンスによるパートナーとの協業は、各国地域の統制事情や需要状況を見ながら、当社の事業展開ともうまく補完関係をとれるように進めており、HPやDellとの協業もそうした流れの中にある。こうした展開の方針は当初から変わっていない」

 どうやら、筆者が勘違いしていたようだ。Microsoftはこのユニークな協業形態をWindows Azure普及拡大戦略の柱にしていると思っていたが、同社自身で事業推進できる地域は、あくまで自身で展開すると。富士通との協業が先行したのは、日本のユーザーに日本でのデータセンター利用を望む声が多かったからだ。

 ただ、このユニークな協業形態は、Microsoftならではのクラウド時代の新たなエコシステムづくりとも感じていた。梅田氏は「この協業形態は今後、需要拡大が見込める中国や他の新興国で広がっていくと見ている」というが、同社自身で展開できるならば、パートナーと協業する必要はないだろう。

 クラウドサービス事業は垂直統合型ビジネスで、究極の顧客囲い込み戦略ともいわれる。先述のOracleもMicrosoftも、目指しているのは“グローバル・メガクラウドサービスベンダー”。いよいよOracleが本格参戦したことで、両社の戦いは一層ヒートアップしそうだ。

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