【第1話】トラブル発生! 動かないシステムその日、私の仕事はなくなりました 〜僕の業務システム改善日記〜(2/3 ページ)

» 2013年10月02日 08時00分 公開
[谷口有近(シロッコ情報技術研究所),ITmedia]

動かないことは劣悪だ

 先ほど開いていた運用手順書を全文検索する。ジョブ名では役に立たない手順しか記載されていない。今度は“再実行”で検索する。いくつかの記載の中に、別のジョブだが「データ不正の可能性があるためスキップを検討する」との文言を見つける。

 ケンイチは過去に、ジョブを誤ってスキップしたために会計の集計結果にミスを生み、一週間分のデータを取り込みし直すはめになったことがある。無意識での操作ミスだったのだが、報告書には「安易にスキップせずスキップ処理を行う場合には上長の許可を得ることとして、運用手順書にその旨を反映する」と書くことになった。それ以来、スキップ処理はしたことがない。

 「フーッ。とりあえず電話だ」

 ケンイチの直属の上司となるべきポストは、今は空席だ。社内開発案件はクラウド化が進み、社内向け運用業務が全般的に縮小傾向となっていたこともあり、コードが書けない上司は開発部門との統合を打診され、早々に退職してしまったのだ。移行期間として、開発部門を中心に統括している情報システム部部長兼開発企画課長が担当しているので、社内アドレス帳から番号を探す。

 ……つながらない。

 (地下かよ! 別のヤツに電話しても繋がらないじゃん。いまどき電波が繋がらない店って、どんな店選んでんだよ、まったく。常識的に考えろっつーの)

 次の作戦を考えてる間に、合コンのドタキャンメッセージを投げる。返信のスタンプがうざい。

 ただ、幸いにも時間はある。全てのジョブは、0時を超える前に完了すればいい。それは手順書にも書いてあった。ジョブの実行が0時をまたぐと、ややこしいらしい。そのあとには夜間バッチ処理が待っている。目標は問題を終電までに解決することだ。

 「とはいえ、再実行してもエラー増えるだけっぽいしな……。どうしますかねーオレ?」

 正義という言葉が好きなケンイチは、普段から飛び交うエラー通知を無視するのにも時間がかったクチだ。言葉の上では落ち着いた振る舞いを見せようとはしているが、それは、気持ちを落ち着かせるためのクセだと自分でも認識している。

 (手順書を読み直す? 無駄だな、こんなケース書いてない。営業で作業したヤツに電話する? それで何が解決するのだ。再実行し続ける? ダメだよな。再実行するたびにひどくなってる気がする。最後の手段はスキップだな。後続ジョブを考えたら、22時にスキップ判断してギリギリか……。やだなぁ、顛末書。事実をまた書き直しさせられる………。まったく、正義はどこにあんだよ!)

 ITに正義など存在しない。こと運用においては、普段通り動作していることが当たり前であり、平均点である。動かないことは劣悪であり、失敗は過失以外の何物でもない。努力による改善が評価されることがあったとしたら、それは「運用でカバー」という魔法の表現を変えただけだ。

 「ビジネスサイドに直結する攻めの運用」などというカッコイイタイトルのセミナーほど無意味なものはない。ようは経営者がシステム部出身で、単に理解があるだけじゃないか。自分たちが学んで実践ができるようなネタじゃない。あげく時代はクラウドで自動化。

 「運用に未来はないんだよ」――。上司とともに退職していった先輩の言葉を思い出す。今は、そんなことを思い出している場合じゃない。あ、そうか先輩か。

 「よし、連絡してみるか」

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