このような体制で始まったプロジェクトだったが、上述したように、予期せぬ事態に直面し、スケジュールの大幅な見直しが求められた。その原因とは何だったのか。
1つが、東日本大震災だ。プロジェクトを一気に推し進める準備が整い、いざWindows 7の全社展開に舵を切ろうとしたまさに直前、2011年3月11日の大震災によって、東北地域のグループ会社が被災したり、一部部品の調達が困難で本社工場および防府工場で一時生産を停止したりと、マツダの事業そのものに影響が出たため、4月の時点で展開計画期間は1年から2年に変更となった。
もう1つは、経営の悪化である。円高や欧州市場での販売減少などによって、2012年3月通期連結決算で1077億円の当期損失を計上し 、4期連続の最終赤字に陥っていた。そうした中で、経営リソースを分散させるべく、2012年上期(4月〜9月)に新たなPCを購入する計画が凍結となった。
「当初の計画では、上期、下期でバランス良くPCを買う予定でしたが、それができないということで、下期で残り半分に当たる7200台を一気に入れ替えなければならなくなりました」と山根さんは話す。急な方針変更による展開計画の見直しとともに、半年で7200台ものPCを入れ替えるという作業量にも実に苦労したという。
「計画通りに行かないというのがプロジェクトとして辛いところでした。メンバーもその気になって進んでいたのに、変更によって彼らのモチベーションをどう保つかというのも重要でした」(山根さん)
半年間で7200台、すなわち毎月1200台のPCを入れ替えるというのは、並大抵のことではない。その苛酷な状況を潜り抜け、無事にプロジェクトを完遂した裏側には、どのような工夫があったのだろうか。
山根さんは、「リプレース」「リフレッシュ」「リユース」という3つのキーワードを挙げて説明する。
多くの企業の場合、新しいPCをリースや購入などしてきて古いPCと替えるリプレースが一般的だが、マツダではリースを満了していないPCがあったため、それらを含めて検討する必要があった。そこで、リプレースに加えてリース満了していないPCをリフレッシュするという方法をとり、対象PCにWindows 7をインストールした。
さらに、工夫を凝らしたのがリユースだ。元々、当初の計画ではリプレースとリフレッシュの2パターンで進める予定だったが、計画変更によってこのアイデアを持ち出したのだという。
「コスト削減という要請の中、恐らく上層部から『使えるPCがあるのになぜ買うのだ』という指摘があるはずだと思ったので、先手を打って工夫しました。言われてからやるのではなく、自分たちがこういう工夫をするからやらせてくれというスタンスで臨まないと、ゴーサインが出にくいプロジェクトだったからです」と、山根さんは打ち明ける。
リプレースしたPCはリース返却するが、その中から約2500台をリユースした。具体的には、対象となるPCを所有する部門に新品PCを持って行き、引き上げたPCにWindows 7をインストールして別の部門に提供した。これによって、2500台の購入を抑制することができたという。「この3つのパターンを組み合わせて、Windows 7に移行している会社はほとんどないのではと思います」と山根さんは胸を張る。
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