日本IBMの地域イベント“第4弾”への決意Weekly Memo

日本IBMが先週、札幌でプライベートイベントを開いた。一昨年来、全国地域での営業展開に力を入れる同社の新たな取り組みに注目してみた。

» 2014年05月26日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

「IBMリーダーズ・フォーラム」第4弾がスタート

 「北海道で初めてのリーダーズ・フォーラムにおいでいただき、ありがとうございます」

「IBMリーダーズ・フォーラム2014 Spring 北海道」で話す日本IBMのマーティン・イェッター社長 「IBMリーダーズ・フォーラム2014 Spring 北海道」で話す日本IBMのマーティン・イェッター社長

 日本IBMのマーティン・イェッター社長は5月19日、同社が札幌市内のホテルで開いた「IBMリーダーズ・フォーラム2014 Spring 北海道」の冒頭でこう挨拶した。

 IBMリーダーズ・フォーラムは、全国地域の営業強化策として同社が2012年7月に支社を開設した東北(仙台)、中部(名古屋)、関西(大阪)、西日本(福岡)の4地域で開催しているプライベートイベントで、今回が第4弾となる。その皮切りとなる19日のイベントは、昨年7月に東北支社が北海道地域も含めて北海道・東北支社となったことから、札幌で初めて開催される形となった。来月にかけて残り3地域で順次開催される予定だ。

 各地域の産・官・学の「リーダー」を招いた同イベントは、2012年5月に日本IBMの社長に就任したイェッター氏の肝入りの活動で、同社幹部も顔を揃える力の入れようだ。2012年秋および2013年春・秋に続く今回の同イベントでは、「スマートな時代へ ― テクノロジーが導く新たな価値の創出」と題し、スマートな時代に求められる事業変革や新たな価値について議論が行われた。

 まず、挨拶に立ったイェッター氏は、同イベントを開催する意義について次のように説明した。

 「昨今のテクノロジーにおける3つの変化が、ビジネスのやり方をも大きく変えようとしている。1つ目は、データが新たな天然資源になりつつあること。2つ目は、クラウドがビジネスを支えるIT基盤になりつつあること。3つ目は、ソーシャルネットワークやモバイルといったエンゲージメント(つながり)のテクノロジーによって、コラボレーションやコミュニケーションの仕方が変わってきていることだ。こうした変化をチャンスととらえてビジネスをどう進めていくか。リーダーの皆さまと一緒に考えていきたい」

 そして同氏は、「IBMはこれらの分野に重点的に投資を行っており、それぞれに強力なソリューションを提供している。グローバルでビジネスを展開しているIBMの知見やノウハウをぜひ利用していただきたい」と訴えた。

有力者が語る北海道の課題と新たな価値創出

 同イベントではその後、札幌市の秋元克広副市長が挨拶に登壇。そしてメイン企画である地域の有力者によるパネルディスカッションでは、「新たな価値創出に向けたビジネスとITの融合 ― Business meets IT, IT meets Business」をテーマに、北洋銀行の石井純二取締役頭取、経済産業省北海道経済産業局の増山壽一局長が登壇。日本IBMの藪下真平取締役専務執行役員が加わり、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授および北海道大学大学院農学研究院客員教授の林美香子氏がモデレーターを務めた。

左から、慶應義塾大学大学院特任教授の林氏、北洋銀行の石井氏、経済産業省北海道経済産業局の増山氏、日本IBMの藪下氏によるパネルディスカッション 左から、慶應義塾大学大学院特任教授の林氏、北洋銀行の石井氏、経済産業省北海道経済産業局の増山氏、日本IBMの藪下氏によるパネルディスカッション

 北海道における現状の課題と対処策、さらには新たな価値創出について、各氏は次のように語った。

 「課題は3つある。1つ目は、人口減少と少子高齢化における日本での先進地域になっていること。特に生産年齢人口の減少が深刻だ。これによって全ての市場が縮小する傾向にある。対処策としては、そうした市場を維持・拡大するために有望な市場にどんどん進出していくことだ。2つ目は、製造業をはじめとした第2次産業の規模が小さいこと。これについては、北海道の強みである食の分野に付加価値をつけることによって製造業を増やしていければと考える。3つ目は、事業所数が減少していること。これについては、産学連携で起業家を増やしていければと思う」(石井氏)

 「先頃まとまった北海道が今後強くなっていくための政策提言では、食の分野を産業化すること、その食産業を軸に観光を産業化すること、そして過疎化が進む中で医療分野を産業化することの3つが挙がっている。食、観光、医療はまさしく北海道における成長産業だ。ITを活用して新たな価値を創出し、さらに発展させていけると確信している」(増山氏)

 また、新たな価値創出に向けたITへの期待について、石井氏は「これからはビッグデータを活用することによって、高品質な情報を企業の経営判断に役立てられるようになる。迅速で確度の高い経営判断が、新たな価値を生み出すと期待したい」、増山氏は「ITには光と影の両面があるが、今後は光の面として例えばIBMが言うエンゲージメントの分野をもっと良い方向へ伸ばしていけば新たな価値創出につながるのではないか」、藪下氏は「ITは距離を克服できるので、北海道の良さをこれからもっとグローバルに伝えていけるようにご支援していきたい」と、それぞれの見解を語った。

MSP7社と北海道地域のクラウド化に注力

 さらに、今回の札幌での同イベント開催にあたり、日本IBM北海道・東北支社の樋口正也支社長に個別取材を行う機会を得たので、北海道地域での具体的な営業展開について聞いてみた。

日本IBM北海道・東北支社の樋口正也支社長 日本IBM北海道・東北支社の樋口正也支社長

 「北海道は食の分野をはじめとして、元気の良い企業が数多い。そうした企業は最新のITをビジネスに活用しようという意欲も強く、例えばクラウドに対する関心も非常に高い。そこで、今後さらに北海道地域の企業のクラウド化をご支援できるように、この地域で有力な7社のマネージド・サービス・プロバイダー(MSP)と、これまで以上に協業を強化していく体制を整えた」

 樋口氏はこう語って、北海道オフィスシステム、ユーザーサイド、コンピューター・ビジネス、北海道総合通信網(HOTnet)、メディア・マジック、システムデザイン開発、恵和ビジネスといったMSP7社の名を挙げた。

 その上で、「今後、当社が提供するクラウドをはじめとした最新テクノロジーをMSP各社に活用していただき、クラウドサービスとしてIaaSやSaaSの品揃えの拡大や、開発環境となるPaaSの提供などをスムーズに行うことで、幅広い顧客ニーズに対応していきたい。北海道地域でもIBMのテクノロジーが必ずお役に立てると確信している」と意欲のほどを語った。

 先にも紹介した通り、IBMリーダーズ・フォーラムは2012年秋にスタートして今回が第4弾となる。地域展開に力を入れるイェッター氏の肝入りの活動だが、奇をてらわず地道な取り組みを続けてきた。そうした中で、イェッター氏にとっても社長就任3年目に入った。同氏なりの決意もあるのではないだろうか。同社の地域展開が大きく実を結ぶか、これからが正念場となりそうだ。

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