セキュリティは1日にして成らず 「成果はまだ?」という経営者へのお願い萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(1/3 ページ)

この分野の仕事をしていると、しばし経営者からすぐに成果を出すよう求められる。だがセキュリティは一朝一夕で誕生するものではない。なぜ、経営者はこう要求されるのか――。

» 2014年10月10日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 筆者は情報セキュリティを主体にしたコンサルタントを実施している。その中で経営者との打ち合わせを頻繁に行っているのだが、どうにもご理解いただけないことがある。今回は昨年、実際にあった某製造業(関東に3つの工場がある)での事例を紹介したい。ただ、今回の事例はこの会社に限らない。これから取り上げるシーンは他のどんな会社でも起きているものだ。だから、悩んでしまう。

「成果はまだ?」

 その会社は工場である建築部品を製造している。筆者は情報セキュリティを中心に、コンサルティング業務を取りあえず1年契約で実施することになった。ところが、スタートからが問題であった。

 その企業の経営者も役員も根っからの工場経験者だった。しかも、中小企業が「情報セキュリティ」という未知の分野にチャレンジした。当初は「情報セキュリティセミナー」や「コンプライアンス教育」というセミナー形式で、その概要をつかんでいただくことにした。

 そして、演習形式での訓練などを順調に消化し、経営者向けの「コンプライアンス経営」に手を伸ばそうとした頃である。社長から、「今後システム系の人間と検討を行い、成果を示してほしい」と指示があった。

 これについて筆者は常々、この工場におけるシステムが同業他社と比較してもかなり遅れていると感じていた。当初の作業となる「現状調査」からも明白になってきたからだ。

 より本格的に現状調査を実施すべく工場見学や従業員へのヒアリングを行い、システムの設計書や社内全体のシステム構成、データベース構造やサブシステム群の状況を分析してから改善計画を出し、生産性の向上、従業員のスキルアップ、そして、企業全体におけるシステム更改を含めた「青写真」を描いていた。下は新入社員から上は工場長までの理解を得て清々とシステム構築ができれば――そう思っていた。

 だから、社長からの要請に「ぜひ、そうさせてください」と答えた。“渡りに船”の状況であった。そして全体構想を練りはじめ、小さな部分からシステム改革を行うスケジュールを組み立てていった。その矢先に、社長が「まだ成果はないの?」と言われたのである。

 まだ作業を始めて2週間しか経過していない。そもそも社内の体制すら教えていただいてはいなかった。組織もしくは専任者が決まるまでは筆者が自分で作業するしかないと考えていたし、社長にもそう伝えていたつもりだったのである。思わず筆者は、「まだ状況を把握しておらず、今後のマスタースケジュールそのものも決まっていない状態で成果を示すことは不可能です」と言ってしまった。

 その直後、私は「うっかり話してしまった」と後悔した。どの業種の企業でも社長や役員は、そのほとんどがシステムに関して素人であることが多い。だから、今までの自分たちの常識の中でしか思考できない。「まだ成果はないの?」というこの発言は、ある意味では理解できるし、そうでなくては仕事が進まないのだ。

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