セキュリティは1日にして成らず 「成果はまだ?」という経営者へのお願い萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/3 ページ)

» 2014年10月10日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

意識のギャップはどこから?

 昔から工場だけを見てきた人は、例えば10日で作成する部品について1日目が終わる時点には、全体の1割程度を完了させている。2日目には2割、3日目では3割の完成度になるという意識だ。しかしシステムや、特に「情報セキュリティ」分野はそんな単純には済まない。

 誤解を恐れずに言えば、3カ月で仕上げるマスタープランの設計図は、大抵の場合は3カ月目に突入するまで全く何も記載されていないということがよくある。だから、そのことを不思議に思われることはない。だが、プロは3カ月目が終わる頃には、きれいに設計図を仕上げる。たとえ1000本近い設計書を作成してきたプロでも、悩んで悩んで悩み切ったところに活路を見い出す。マスタープランのような成果物は、そのような生みの苦しみを経て実現すると言っても過言ではないと筆者は思う。

 設計とは「無」の状態から「有」を創り上げていくものだ。多分、人類にとって唯一残される仕事がこれになるだろう。筆者がまだシステムエンジニアになりたての頃、尊敬している先輩からそう教えていただいた。仕事で悩んでも、「悩んで脳を活性化させるのが自分の職務」と思っていた。

 だから、数カ月でマスタープランを構築するという考えのもとでいろいろな準備をしていた。その矢先、たった2週間で「成果を示せ」というこの企業の社長の言葉は、筆者にとっては困難なものであった。情報セキュリティ分野のプロとして筆者の頭の中に“ベルトコンベア”は無い。様々な要素が複雑に絡み合う「無」の状態から「有」を生むのがシステムや情報セキュリティのプロとしての動き方だからだ。

 そうはいっても、経営者の希望なら仕方がないかもしれない。「○○概念図」」とか「○○リスト」といった、後でほとんど役に立たない資料でごまかすのも“必要悪”なのかもしれない。

 その後、経営者は「短期で成果を示せ」という指示の意図をこう話された。

 「萩原さんは、○○依頼書の中の項目にある『これやこれが不要になるかもしれない』と指摘してくれたよね。そこだけでもいいから検討して、短期で成果を示してよ」

 経営者だから、お金を払っているのだから――本音では1日単位でも払った金額に見合う「成果」を求めるものだろう。成果を手にして「彼に依頼をして良かった」と思いたかったに違いない。その気持ちは筆者も理解できる。でも、この分野の仕事には通用し難い思考なのだ……。

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