エンジニアの大量雇用とリストラの繰り返し、その解決策はあるのか2015年問題の本質を探る(4)(2/3 ページ)

» 2014年11月13日 08時00分 公開
[井上実,M&Iコンサルティング]

大量雇用と大量解雇の繰り返しを解消するために

 IT企業が今後、国内のIT需要に振り回されて、大量促成栽培と大量解雇を繰り返さないためには、どうすればよいのか? 次のような解決策が考えられる。

(1)常駐型受託開発から持ち帰り型受託開発へ

 連載の第2回で述べたように、常駐型受託開発に対するユーザー企業のニーズは高い。しかしこのサービスを中心に事業を行う限り、IT企業は海外進出もできず、国内の人材需給に基づく大量雇用と大量解雇を繰り返すしかない。

 これを持ち帰り型受託開発に転換すれば、遠隔地や海外の人材を活用したオフショア開発やニアショア開発を活用でき、自社要員を増やさずに国内IT需要に対応することができるようになる。海外市場への進出も常駐型よりは容易になるだろう。

 また、持ち帰り型に転換すると、自社内に開発環境を整備する必要はあるが、社内で他のプロジェクトに従事している社員とアドバイスを交換したり、複数のプロジェクトを兼務したりすることもでき、1人あたりの開発効率を上げられる。

 著作権を留保したソフトウェアの再利用や自社開発方法論を活用して、開発効率のさらなる向上を見込めるメリットもある。クラウドサービスを活用すれば、開発環境の整備にかかる費用を抑えることも可能だ。

 大量促成栽培、大量解雇の繰り返しを解消するとともに、開発効率を向上させるため、IT企業はユーザー企業の理解を得ながら、常駐型受託開発から持ち帰り型受託開発へ転換を図る必要があるだろう。

(2)受託開発から自社サービス提供へ

 “人月商売”である受託開発から自社サービスの提供へ事業を転換するのも1つの手だ。

 受託開発を行う限り、人月単価×人数(工数)という算式で商売をすることになる。売上を伸ばすためには、単価を上げるか、人数を増やすしか方法はない。単価を上げるためには、単価に見合ったスキルを従業員に身に付けさせる必要があるため、先行投資が必要だ。しかし、競合他社との差別化を図らないと競合以上の単価をユーザー企業に要求することは難しくなるため、これは容易ではない。

 一方で人数の増員は比較的たやすい。未経験者を集めてプログラムが組めるレベルまで短期間で育成すればよいからだ。この利益構造が需要に合わせて雇用と解雇を繰り返す原因でもある。

 これに対して、PaaS(Platform as a Service)やSaaS(Software as a Service)などのクラウドサービスのように、ソフトウェアをサービスとして提供すれば、サービスが利用されている期間は安定した収益を見込める。開発という一定期間の需要に基づくものではないので、収益、ひいては従業員数の変動を抑えることにつながるのだ。

 ユーザー企業のニーズがなければ自社サービスへの事業転換は難しいが、彼らのニーズも受託開発からサービス提供に変化してきている。「IT人材白書2014」の調査によれば、今後3年間の新規、または拡大予定の事業内容に、多くのIT企業は「受託開発、運用、SI」を挙げたのに対して、ユーザー企業の多くは「PaaS、SaaS、IDC(Internet Data Center)サービス」を挙げた。

photo IT企業とユーザー企業のそれぞれが今後3年間で新規、または拡大予定としている事業内容。両者ではっきりと傾向に差が出ている(出典:IT人材白書2014)

 IT企業の中には、「現在のビジネスが受託開発中心で、サービスへ事業転換するのは難しい」という企業は多い。しかし、受託開発だからといってサービス化できないことはない。最近は、納品がない受託開発として「ソニックガーデン」という会社が注目を集めている。オーダーメイド開発だが、クラウドを活用して、客先に技術者を派遣せずに開発を行うサービスを定額で提供している。

 また、オーダーメイド開発でも、著作権はすべて自社で留保して顧客からは、毎月ソフトウェア使用料金をもらうというビジネスをする会社もある。著作権を留保しているため、開発すればするほど自社ソフトウェア資産が増え、効率的かつ短納期での開発、サービス提供が可能となっているという。

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