電子カルテを中心としてIT化が進む医療現場。先進事例を数多く出す、京都大学医学部附属病院では、セキュリティを保ちながらWebページの印刷を行うために“クラウドプリント”を導入したという。同病院のシステム管理者に導入までのストーリーを聞いた。
ITの急速な進化により、医療現場に大きな変化が訪れつつある。電子カルテが徐々に普及していくなかで、病院のシステムも「デスクトップ仮想化」や「デバイス管理」といった技術を導入するケースが増えてきた。
京都大学医学部附属病院(以下、京大病院)も、積極的に“院内のIT化”を推し進める病院の1つだ。2011年にも、院内にあるPCと業務用端末の約2100台に仮想デスクトップ技術を導入した。カルテは患者の個人情報であるため、取り扱いには高いセキュリティが求められるのが主な背景だ。
仮想化導入の際には、診察室にある電子カルテ用端末でもWebサイトの閲覧ができるようにした。電子カルテのデータとWeb閲覧用のサーバを隔離するため、Web閲覧用サーバの画面を転送する形を取っているという。京大病院のシステムの責任者を務める、京都大学教授の黒田知宏さんはその理由を次のように話す。
「今や診察室でインターネットが使えないと不便なことが多いのです。病院に来る患者さんは、あらかじめネットで病気に関する情報を集めてから来ることが多い。病状の説明をしたり、治療のガイドラインを示したりするときにはWebページを見せながら話した方が分かりやすいんですよ。また、病状が安定すれば、近くにある診療機関に移ってもらうケースが多いのですが、相手先の病院を調べて説明するときにもインターネットが使えないと面倒ですね」
とはいえ、電子カルテのデータとWeb閲覧用のサーバがつながることがあれば、情報漏えいやウイルス感染のリスクが高まってしまう。このようなリスクを軽減し、ユーザーの使い勝手とセキュリティをうまく共存させるシステムとして選んだのが仮想デスクトップだった。こうしてWebサイトの閲覧は可能になったものの、次に「Webサイトの印刷ができない」という問題が浮かび上がった。
仮想デスクトップ環境では、PC画面はいわば“サーバから操作画面の映像が送られている”ような状態なので、プリンタにデータを転送することができない。かといって、プリンタにデータを転送できるように画面のデータをファイル形式で取り込めるように、Web閲覧用サーバと電子カルテ用端末を“接続”すればセキュリティのリスクが高まってしまう。そのため、京大病院ではWeb閲覧用サーバの画面印刷をできないようにしていた。
とはいえ、医師が患者に必要な情報を手渡せるようにしてほしいという要望は黒田さんのもとに届いていたという。そうした中で、止むに止まれず黒田さんも想定外の方法で医師が“強引に”Webページの印刷を行っているケースもあったという。
「画面を印刷するためだけに別にPCを用意して、京都大学内の学術ネットワークを使ってプリンタで印刷していた人もいました。モバイルWi-Fiルータを使ってネットワークをつなげていた人もいたかもしれませんが、正確には分かりません。こちらが把握しきれないのはある意味しょうがないところもあります。こうしたことをやる人は、ルール違反(実はそうではありませんが)だと思っていますから、普通はバレないようにやりますよね」(黒田さん)
その後、画面印刷を実現する方法を探す日々が続いたという。黒田さん自身も“できないようにすること”がよいアプローチとは思っていなかったためだ。
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