「ぴんぼっく」を信じる者は救われる?女子ヘルプデスクのプロマネ修行奮戦記(2/3 ページ)

» 2015年05月15日 11時00分 公開
[鐙貴絵ITmedia]

わたし 「Aさん、独自性のある成果物って何ですか?」

Aさん 「は?」

 突然のわけの分からない問いかけに、ほら、Aさんが困っている。ちょっとうれしいかも。ただ、うれしいからといってAさんまで困ってしまうと、肝心の答えを聞き出せない。

わたし 「あ。えっとですね、プロジェクトの『独自性』というのがよくわからなくて。例えばうちの『販売促進プロジェクト』なんて、毎回おんなじようなことをやっているじゃないですか」

Aさん 「ああ、そういうことか。そうだね。確かにプロジェクトには『類似性』がある。でも、それは単に似ているというだけで、全く同じではないだろう?」

わたし 「『だろう?』って言われても、そこが分かんないんです」

Aさん 「そうだったね。例えば一昨年の販売促進プロジェクトは長期的なデフレやら円高やらで、“いかに安いものをたくさん売るか”ということに重点が置かれていた。でも昨年の販売促進プロジェクトは、デフレ傾向が一段落したり、景気が少し上回ってきた感触があったりしたから、“いかに付加価値をつけて高く売るか”ということに重点が置かれていたよね」

わたし 「そうでしたっけ?」

 自分に関係のないことは(いや、関係のあることでも)終わったらすぐに忘れるのが私の性分(能力?)だ。

Aさん 「……。つまり、プロジェクトで生み出されるものや、プロジェクトの中での一連の活動はそれぞれ似ているけれど、プロジェクトに対するニーズや生み出されるものに対するニーズが『他のプロジェクトとは違う、そのプロジェクト固有のもの』だから、プロジェクトは互いに『独自性』を持つ、というわけなんだ」

 ちょっとでも違うことが含まれていたら「独自性」があるってことなのか……。私が考え込んでいるとさらにAさんが質問をしてきた。

Aさん 「じゃぁ、別の話をしよう。先日、駅前に新しいイタリア料理店がオープンしたよね」

わたし 「あ、そうですね! って、なんでAさんそんなこと詳しいんですか?」

 ホント、Aさんの引き出しの多さには驚くばかりだ。

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Aさん 「まぁまぁ。ところで、イタリア料理店は駅前にもあるし、ショッピングモールにもある。同じイタリア料理店でも、それぞれに特徴、というか、違いがあるだろう?」

わたし 「そうですね。駅前の店はビジネスパーソン向けだし、ショッピングモールの店はファミリー向け、という気がするし……価格帯も違うような気がします。駅前にオープンした店のほうが、高級感がありそう」

Aさん 「そうだね。仮にショッピングモールにオープンした店が成功したからといって、全く同じコンセプトで駅前に出店しても、失敗する可能性が高いと思わないか?」

 確かに。客層も違うだろうし、営業時間帯も違ってくるだろうし。

Aさん 「つまり、そういうことなんだよ。『イタリア料理店を出店する』という観点で見たら同じだけど、そのイタリア料理店のニーズや客層、シェフの得意料理、価格帯、本格的な店を目指すのかカジュアルな店を目指すのか、といったことはすべて違う。こういうことが、『独自性』ということなんだよ。それぞれのイタリア料理店はそれぞれのプロジェクトとして開店するまでのプロセスを踏み、開店へとこぎつけることになる」

わたし 「なるほど……なんか『独自性』って一般的な意味として理解するより専門用語して理解したほうがいいみたい」

Aさん 「PMBOKにはそういう用語が多いね。直訳している言葉が多いからそうなるのかもしれないね。だから、1つひとつの言葉の意味に関しては深く考えないほうがいいよ」

わたし 「あ、じゃぁ、成果物って? 成果物って何です?」

Aさん 「何だと思う?」

わたし 「単純に考えたら、開発なら出来上がったプログラムとか……イタリア料理店を開店するなら、お店そのものが成果物ですか?」

Aさん 「うん、そうだね。プロダクト、つまり製品は成果物の一種だね」

わたし 「あー、プロダクト!」

Aさん 「?」

わたし 「あ、失礼しました。プロダクトと成果物って、同じなのか違うのか迷ってて……」

Aさん 「なるほどね。そんなわけで、目に見える製品、すなわちプロダクトは成果物の1つだよ。他にも、今回お願いしている在宅ヘルプデスク部門の開設プロジェクトは、そうして作り上げた新しい部門が成果物だね」

わたし 「つまり、サービスやサービスをする能力そのものも成果物ということですね?」

Aさん 「そうだね。さらに、業務を改善するというプロジェクトもあるということは?」

わたし 「えっと、製品やサービスの改善も成果物?」

Aさん 「よくできました。そして、製品のマニュアルとかサービスの手順とかは、ドキュメントという形で記録されるだろ?」

わたし 「はい。ということは、それらの記録も成果物なんですか?」

Aさん 「所産という言い方をしているんだ。英語ではResult」

 ああ、あったあった。所産。作り出すものとしてさらっと流していたけれど、記録した“結果”なのか。

Aさん 「所産のほとんどがいわゆるドキュメントなのだけれど、どういうプロジェクトをどのように遂行したか、どのようなリスクがあってどのような対策をとったか、どれぐらいのコストがかかったか、といった記録は、『類似性』のある次のプロジェクトへの大切な教訓になるんだ」

 記録が作られるから、所産も成果物なのか。それらの成果物は次のプロジェクトでの大事な参考となる。なるほどなるほど……

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