企業にいるからこそ、世界を変える研究ができる――安部麻里さん「リサーチャー」という仕事(1/2 ページ)

日進月歩で技術革新が続くエンタープライズITの世界。その裏にリサーチャーと呼ばれる“研究者”の活躍があるのはご存じだろうか。企業に籍を置きながら、研究を続ける彼らはどのようなことを考えて働いているのか。知られざる仕事内容とこだわりに迫った。

» 2015年09月30日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

 「もう一度仕事を選び直せるとしても、やっぱり企業のリサーチャーになっていると思います」――IBM東京基礎研究所でリサーチャー(研究員)として働く安部麻里さんはこう話す。

 日進月歩で技術革新が続くエンタープライズITの世界。私たちは日々その恩恵にあずかっているわけだが、その技術革新を誰が支えているかはご存じだろうか。安部さんは、数学的なアプローチで第3次産業の生産性を向上させる「サービスサイエンス」の研究員。現在はBPM(ビジネスプロセス管理)やITシステムの価格設定を行う仕組みの研究をしている。

 研究員というと研究所にこもりきり、というイメージを抱く人が多いかもしれないが、自宅で海外拠点とテレビ電話でやりとりしたり、クライアント先の現場に行くこともあるなど、その業務は多岐にわたる。「特に(IBMが)コンサル部門を買収してからは、“研究員も現場に出てクライアントの課題を知るべき”というニーズが高まっていますね」(安部さん)

“研究所の外”に出て気付いたこと

photo 日本IBMでスタッフ・リサーチャーを務める安部麻里(あべ・まり)さん。2000年4月に入社して以降、リサーチャーとして10年以上研究を続けてきた

 安部さんが日本IBMに入社したのは2000年のこと。大学院でCGによるシミュレーションを研究していた彼女は、学会で同社を知ったという。「IBMが作った江戸城のCGが学会誌の表紙になっていたんです。石垣の凹凸なども再現していて驚いたのを覚えています」(安部さん)

 そして、志望通り同社の研究所に入った彼女を待っていたのは、Web上のコンテンツをモバイル向けに自動変換するシステムの開発だった。当時ニーズが高まっていたとはいえ、今までの研究とはまったく異なる分野だ。しかし、「大変でしたけど、勉強していて楽しかった」と安部さんは振り返る。

 その後、働きながら大学に通って博士号を取得するなど、順調に研究員としてのキャリアを積み重ね、2013年から業務改善に関するプロジェクトチームに所属。とあるクライアントの「業務にかかる時間を短くしたい」という依頼を受け、業務現場へと現状の調査に向かった。そこで安部さんは“研究員”と“現場”の意識のズレを感じたという。

 「業務改善という問題を与えられたとき、研究員は細かい部分に目が行き、先進的な技術アプローチで答えを出そうとしがちですが、現場の人たちの問題意識はもっとシンプルだと気付きました。それが分からないままでは単なる自己満足にすぎません。このケースも業務担当者が確認する項目が多すぎる、タスクの優先順位が把握できない、といった単純な部分に問題がありました」(安部さん)

 “人の行動を観察するのが好き”という安部さん。BPMという分野については、どうすれば人が自律的に動き、業務がうまく回るのかという点に興味があるそうだ。最近では“ログ解析を用いた業務改善”というテーマで、自身の論文が採択されるなど、学会での評価も上がってきており「BPM分野で第一人者を目指したい」と意気込む。

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