「自分もITベンダー側の立場とはいえ、知らないこともたくさん。むしろユーザーから教えてもらうことのほうが多いくらいです」――こう話すのは、日本IBMでクラウドサービスのエバンジェリスト(啓蒙者)を務める北瀬公彦さんだ。
ここ数年で、企業とITを取り巻く環境は一変した。従来はサーバやストレージなどのハードウェアを組み合わせてITインフラを構築するのが一般的だったが、今ではネットを通じて必要なITリソースを調達するクラウドサービスが新たな主流になりつつある。
それに伴い、ITベンダーとユーザー企業の関係性も変わりつつあるようだ。「従来のハードウェア製品と異なり、クラウドは導入してからも機能のアップデートなどがしばしば自動で行われる。そのため『どんな機能があり、どう使えばいいのかが分かりにくい』というユーザーの声も少なくない」と北瀬さんは話す。
そこで北瀬さんが行っているのが、エバンジェリズム――つまり「啓蒙活動」だ。「日々進化していくクラウドだからこそ、ITベンダーとユーザーが一緒になって新機能や活用方法を学んでいく場が欠かせない。ユーザーコミュニティーの立ち上げや運営を通じ、そのための一助になれれば」(北瀬さん)
北瀬さんが同社に入社したのは2014年3月のこと。それまではIBMのクラウドサービスを活用する側の企業にいたが、「自分もクラウドサービスを提供する側に立ってみたい」という思いから古巣を飛び出し、一念発起で日本IBMの門をたたいた。
入社後にまず行ったのは「自分の役割を決めること」。日本で設立78年を迎える同社だが、実はクラウドサービス専門のエバンジェリストを設置するのは初めてだった。「まず人事と交渉しました。『エバンジェリストと名乗っていいですか?』って」(北瀬さん)。
営業やプリセールスではなく「エバンジェリスト」の肩書にこだわったのには理由がある。1つは、オープンソースコミュニティーなどに大きく貢献しているIBMの活動(特にクラウドサービス)を多くの人々に知ってもらいたいと思ったこと。そしてもう1つは、ユーザー自身がクラウドサービスを使いこなすための「コミュニティー」を支援したいと思ったことだ。
「クラウドは導入して終わりではなく、使っている間にも次々と最新のアップデートが行われる。つまりユーザーにとってはITベンダーの情報を待っていたらとても追いつかないので、ユーザーが自ら学んでいけるコミュニティーの存在が欠かせない」
北瀬さんのコミュニティーでの活動方針は明快だ。あるクラウドサービスのユーザーコミュニティーがなければ自ら立ち上げたり、ユーザー自身が立ち上げるのをサポートしたりする。そして、その活動に必要な知識やチップスを提供したり、コミュニティー活動をその“外側”の人たちにも広げていく。
こだわりは「オープンで、できる限り中立であること」だという。「あくまで目標はクラウドというマーケット自体を広げていくこと。そのために自分もコミュニティーメンバーの一員となり、全てのユーザーまで浸透しにくい新技術を自ら試して紹介したりしている。何かネタを持ってきて、まずは自分でやってみる。何かあれば自分で責任を取る――そんな覚悟がなければできない仕事だ」。
エバンジェリストという役割をIT業界で耳にすることも増えつつあるが、中にはテクニカルセールスなど別の役職と兼務している人も少なくない。そんな中、北瀬さんは「本職=エバンジェリスト」であることにこだわっている。
「エバンジェリスト活動のほかに営業としての売り上げ目標などがあると、日々の業務が自然とそちらに流れていってしまう」。売り上げなどの数字が目に見えにくい仕事だからこそ、目指す成果に対して“覚悟”を持って取り組んでいるという。
そんな北瀬さんの活動はいま大きく実を結びつつある。同社のクラウドサービス「SoftLayer」「Bluemix」のユーザーコミュニティーが9月に開催する大規模イベントもその1つだ。ここでは北瀬さんが支援している「日本SoftLayerユーザー会」「日本Bluemixユーザー会」が50以上ものセッションを持ち、活動の成果などを報告する予定という。
「コミュニティー活動が素晴らしいのは、自分だけでなく周囲のためにもなり、それがまた自分のためにもなること。分からないことがあれば自分で調べてみて、その結果をみんなにシェアしたり、あるいはすごい人に解説を頼んだりする。こうしてコミュニティーがさらに広がり、深まっていけば嬉しい」(北瀬さん)
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