去る11月、多くのファンに惜しまれつつラストフライトを終えた無尾翼ジェット機「M-02J」。映画「風の谷のナウシカ」に登場する飛行具「メーヴェ」の実現を目指したこの壮大なアートプロジェクトは、今後どこへ向かうのか。開発者であるメディアアーティストの八谷和彦氏に、ラストフライトの反響から機体の未来、そして次なる夢について聞いた。
千葉県野田市の江戸川河川敷で11月16日に開催された「空まつり 2025 in SEKIYADO NODA」。このイベントで、八谷和彦氏が手掛ける無尾翼ジェット機「M-02J」は、その最後の飛行を披露した。当日は、会場でも「普段の5倍の人だかりだった」と言われるほどの観客が詰めかけ、その注目度の高さを物語っていた。
筆者も会場にいたが、ピクニックのように楽しむ家族連れの姿も多く、オープンで和やかな雰囲気が印象的だった。八谷氏も「日本では飛行機に触れる場が少ない。年に1回でもこういう機会があると、いろんなことが変わってくる」と、こうしたイベントの意義を語る。
そして、この日のハイライトはやはりこのラストフライト。M-02Jのジェットエンジンに火が入ると、それまでの和やかな空気は一変。甲高いエンジン音と共に、会場全体から期待が湧き上がった。「あのジェットエンジンの音も含めて、生で見て、感じてほしかった」と八谷氏が語るように、それは映像だけでは決して伝わらない、五感を揺さぶる体験だった。
「懐かしい友人や知人もたくさん来てくれて、なんだか生前葬みたいでしたよ」──八谷氏は、多くの知人やファンが全国から駆けつけてくれたラストフライトの日を、そう笑いながら振り返る。それは決して悲観的な意味ではない。20年以上にわたるプロジェクトの一つの区切りに、これほど多くの人々が立ち会ってくれたことへの、深い感謝の念が込められた言葉だった。
そのラストフライトの様子は、八谷氏自身が編集した動画で観ることができる。ぜひ、その優雅な飛行と、河川敷に響き渡るジェットエンジンの音を体感してほしい。
M-02Jが単なる「飛行機」ではないことは、その姿を見れば一目瞭然(りょうぜん)だ。最大の特徴は、一般的な飛行機にある「尾翼」が存在しないこと。操縦は、パイロットが自身の体重移動によって行う。
この操縦方法は独特で習熟難易度が高いが、同時に、鳥のように空を舞う感覚をダイレクトに味わえる、M-02Jの魅力の核心でもある。
この無尾翼機の飛行原理については、漫画家のあさりよしとお氏が八谷氏の著書のために描き下ろした解説マンガ「無尾翼機のひみつ」が非常に分かりやすい。八谷氏も「無尾翼の飛行原理を言葉で説明するのは難しいんですが、これを読めば理解できます」と太鼓判を押す。
今回はお二人のご厚意で特別に許可をいただき、記事末(3ページ目以降)にマンガ全16ページを1週間限定で掲載しているので、ぜひ読んでいただきたい。
八谷氏がこの「OpenSky」プロジェクトを開始したのは2003年。以来、20年以上にわたって、彼はなぜこのプロジェクトを続けてきたのだろうか。八谷氏は「企画する人と作る人と飛ぶ人が同じ人っていうのは、無茶といえば無茶なんですけどね」と笑う。
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