FinTechは金融だけ? なぜ異業種も目の色を変えるのか萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)

» 2016年01月22日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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POSはもう古い?

 筆者が直面したFinTechの事例を幾つか紹介したい。2年程前ある講演会で、某IT企業の社長が筆者にこう尋ねてきた。

 「萩原さん、明日のフリーマーケットで自宅の古本を売ろうと思います。最近は外国人も多いので現金が好まれません。クレジットカード決済をできるようにしたいのですが、明日までにどうすればいいですか?」

 明らかに筆者を試している感じだったが、勘の良い人ならSquareを思い浮かべるだろう。筆者もそう考えていた。SquareのWebサイトを見ると、無料でカードリーダーを送付してくれるとある。しかし、「明日までに」という条件には間に合わない。そこで、一部のローソンではカードリーダーが980円で販売されている。初回利用時に1000円が入金されるらしいので、実質無料だ。この情報の通りかを最寄りの店舗で確認して、すぐに購入した。後は説明書通りに準備して自分の口座を決済口座に指定するだけだった。審査もすぐに完了した。ここまで30分も掛からなかった。

 翌朝、社長がサンプルで持参した筆者の雑誌を100円で購入し、VISAで決済することができた。一連の作業時間はせいぜい3分だ。昔のように、商店街の小売店からの依頼で銀行マンがクレジット決済可能店にするまでの手間や時間に比べて、なんと簡単なことか。

スマホやタブレットがレジになるSquareのリーダー(Squareサイトより抜粋)

 また、筆者が聞いた別のケースでは小規模チェーンのオーナーが「POSはもう古い」と話していたそうだ。このチェーンではPOS端末やPOSレジを使って売上を管理していた。だが、POSは機器が高く、1セットで10万〜30万円ほどだという。しかも毎月の運用費が1カ所につき数万円かかる。FinTechではないが、そこに現われたのがCoineyだった。

 同社のWebサイトにあるが、Coineyターミナルは実質0円だ。決済手数料に3.24%かかるだけで、これは既存のクレジット手数料に比べたら安価である。オーナーのチェーンは小規模といえ、20店舗ほどある。つまり、POSなら機器導入だけで400万円(1カ所20万円と仮定)、毎月の運用費なら40万円(2万円×20店舗と仮定)もかかるが、Coineyならそのほとんどの費用が浮く計算だ。

 しかも、その日のうちに売上計算が瞬時になされるので評判がいい。データはCSV形式でダウンロードできるので、詳細な分析も可能である。オーナーの視点でいえば、クレジットカード手数料を考慮しても、それ以下のコストで全てを賄える。

 オーナーはいう。「これにFreeeやTransferWiseのようなさまざまなFinTechのサービスを利用すると、ほとんど金銭的な投資をすることなく完結してしまう」と。この状況に立ち向かえる金融機関はあるのだろうか。少なくとも上述したシーンだけなら、金融は完敗するしかない。

 本稿を執筆していたところ、1月20日付の日本経済新聞電子版が「邦銀、海外送金の手数料10分の1に アジア展開支援」と報じた。アジア10カ国を対象に、送金手数料を10分の1にできる新たな国際送金網を作ることを検討しているという。

 なぜ大手銀行が手数料を10分の1にしなければならなかったのか。前回の記事で触れた点などを鑑みれば、賢明な読者の皆さんなら明確にご理解できるだろう。これは戦略的案件であり、前向きの作業ではない。海外送金の客離れを少しでも防ぐための一時しのぎの策に過ぎないのである。邦銀が恐れるのは、手数料自体の収益悪化というより、これに伴うさまざまなビジネスチャンスを丸ごと失うことに違いない。5年前にたった2人で立ち上げた会社でも、企業したこんなツールを売ることで、2015に45億ドルを超える国際送金を扱うようになってしまうのである。

 次回も追加事例を示し、こうした個別具体的な動きがどう有機的に結合し合い、日本の金融と産業がどう変わるのかについて考察を進めていく。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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