AWS対Microsoft対Google──決算報告書に隠されたクラウド戦争の優劣Computer Weekly

クラウド市場におけるAWS、Microsoft、Googleの三つどもえの戦いはさらにヒートアップしている。現在の実力差はどれくらいあるのか。各社の決算報告から見えてくるものとは?

» 2016年09月21日 10時00分 公開
[Caroline DonnellyComputer Weekly]
Computer Weekly

 IaaS市場はAmazon Web Services (AWS)の独走状態だ。それでもMicrosoftは何とか顧客をつなぎとめてきた。「Microsoft Azure」を武器に、オンプレミス環境を抱える古くからの顧客に対して社内のサーバを捨ててクラウドに移行するように説得することに注力したからだ。

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 Microsoftのこの戦略は当たったようだ。同社の2016年第4四半期の決算報告書によると、Azureクラウド部門の売り上げは102%増と、社内でも屈指の成長率を記録した。

 ここ数年、同社はコモディティ化したクラウドサービスのかなりの部分について、使用料をAWSと同等にすると公言している。これもマーケティング戦術として有効だった。例えば、Amazonがサービス料金の引き下げを発表すると、必ずMicrosoftも追随して同様の発表を行い、セールストークにその情報を巧みに挟み込んでいる。

 IaaS市場はAmazonとMicrosoftの一騎打ちという印象を持つ人も多いが、このイメージを払拭(ふっしょく)しようと躍起になっているのがGoogleだ。2015年の後半、同社はVMwareの元共同創業者ダイアン・グリーン氏をクラウド部門の責任者に指名した。

 2012年にGoogleの経営陣に加わったグリーン氏は、オフプレミス(=クラウド)のインフラとソフトウェアの施策に関わる製品開発、エンジニアリング、営業、マーケティングの各部門を同社で初めて統合したクラウドサービス部門を率いて事業を進める役割を任された。

一貫したアプローチ

 Googleのサンダー・ピチャイCEOが参加して、Googleの親会社であるAlphabetの2016年第2四半期決算について議論した電話会議の中で、この組織再編が言及された。「クラウドに対して一貫性を高めたアプローチを取ることで、エンタープライズ顧客の拡大につなげたい」とピチャイ氏は語っている。

 金融専門サイト「Seeking Alpha」が報じたこの電話会議の議事録によると、ピチャイ氏は「これは大きな方針転換だ。明らかにその影響は大きい」と話したという。

 「私から見て、(今回の組織再編は)世界的な規模の大企業にアプローチするという新しい方針を打ち出したことを意味するものだ。この会議のような場に上る話題や当社が作成するRFP(提案依頼書)の記述内容に間違いなく影響する。当社が2016年になって、音楽配信サービスの『Spotify』やAppleなどと非常に大規模な契約を何件か獲得することができたのは、明らかにその影響の1つだ」(ピチャイ氏)

 この勢いを持続させるため、同社はこの方針転換に至った経緯を簡単に説明し、一部の部門では社員の増員を図っている。例えばクラウド部門は、第1四半期の採用人数と比べて、第2四半期の社員の採用人数は実に2460人増となった。

Google vs. AWS

 Alphabet全体の第2四半期の売上額は215億ドル、利益は49億ドルと報告されている。しかし現在のところAlphabetは、全社に対するクラウド部門の貢献度について、決算では詳細な内訳を公表していない。

 クラウド部門の売り上げは、部門ごとの詳細ではなく「その他の売り上げ」として報告されている。つまり、Googleの統合されたクラウド部門としての業績は明確になっていない。売上額は、Google Playやハードウェアベンチャー部門との合算となっている。

 合算額とはいえ、その項目の売上額は22億ドルで、前年度比33%増となっている。

 Googleのクラウド部門は実際にどの程度の規模なのか、現時点では明らかにされていない。しかし、Googleと同じ日に発表されたAWSの決算結果を見ると、AWSが優位にあることは否定のしようがない。AWSだけで、売り上げとして29億ドルが計上されている。これが親会社の米Amazonの収支に加わっている。この売上額は前年同期比58%増であり、Amazon全社の売り上げの9%を占める。

 決算結果を検討する米Amazonの電話会議の議事録を、同じくSeeking Alphaが伝えている。その中でAWSの上級管理職チームは、インフラの効率を高めるために(開発者が)表に出ないところで地道な取り組みを続けている効果が、収益増として現れてきていると発言している。

データセンターのフットプリント

 AWSは現在世界各地でレイテンシ、データ主権、セキュリティに関する顧客の不満に対応して、データセンターのフットプリントを拡大中だ。この施策がさらなる新規ユーザーの掘り起こしにつながっていると同社は説明する。

 米AmazonのCFO(最高財務責任者)ブライアン・オルサフスキー氏は次のように語る。「当社サービスの展開地域を拡大すると、既存の顧客はAWSで稼働させるワークロードをさらに増やすだろう」と話す。一部の顧客で、レイテンシに対する不満やセキュリティの問題を抱えており、どうしてもその顧客の国内で(ワークロードを)稼働させるしかないケースもある。データセンターの拡大は、こうした問題の解消に役立っている。

 「当社がリージョンを追加するのは、それを契機に新規顧客に対して門戸を開くという側面もある。これは確かに、当社の顧客ベースを拡大するための、胸が躍る投資だ」

 GoogleとMicrosoftが同社の地位を脅かそうとする試みは当然AWSの目に入っているはずだ。しかし、その競合企業の「当社こそクラウド市場で優位を占めている」という構えは見せかけだけで、今のところ脅威を感じるには至っていない。

 特に、オルサフスキー氏が決算結果を検討する会議の中でことさら言及した通り、AWS、Google、そしてそれ以外の企業にも、ビジネスチャンスはまだまだ広がっている。最近は大企業で、自社のIT環境に対してマルチクラウドのアプローチを採用するところが現れ始め、複数サプライヤーのクラウドサービスを併用する顧客が増えているからだ。

 同氏は次のように主張する。「この分野には当社が真っ先に参入した。とはいえ、複数のサプライヤーが参入する余地は大いにある」

 「当社は今、顧客に代わってイノベーションを進めて地理的なフットプリントを広げ、当社のサービスをできるだけ広範な地域に拡大させることに注力している」

 英国のIT市場に特化した調査会社TechMarketViewでリサーチディレクターを務めるケイト・ハナハン氏は、各企業の決算報告をまとめる記事の中で「AWSは当面のところ、間違いなくクラウド市場のけん引役を継続する」と述べている。

 また同氏は続けて、以下のように分析している。「AWSの業績については、競合他社よりも明確な数字が発表されている。Googleのクラウド分野の売り上げは(他分野との合算によって)隠されているし、MicrosoftのAzureの売り上げは、前四半期比で102%増と発表されているが、比較の基準がよく分からない。われわれの見解では、AWSは特に英国では成長のペースが遅いようだ。もっとも競合他社に比べれば、AWSは市場で突出した存在だといえる」

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