人とAIの共存で進化する「おもてなし」

人工知能と人が、本当の意味で“話せる”ようになる日【総力特集】人とAIの共存で進化する「おもてなし」(1/4 ページ)

昨今「Watson」や「りんな」など、人間と会話ができる人工知能が注目を集めている。しかし、これらは人間の心を理解してコミュニケーションを取っているかというと、そうではない。いつか本当に人工知能と人が心を通わせるような時代は来るのか。人間と雑談できる対話システムを開発し続ける第一人者に話を聞いた。

» 2016年10月31日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

 人工知能(AI)が「必要なものはこれですか」とオススメしてくれる世界が、近い将来、実現するかもしれない。人間をはるかに超える学習能力を持った人工知能が、私たちの思考の一歩先を読み、意思を持った人間のように私たちを“もてなして”くれる世界が目の前に迫っているのだ。

 人工知能というと、最近はマイクロソフトが開発している女子高生AI「りんな」や、CMが話題を呼んだIBMのコグニティブシステム「Watson」などが注目が集めている。両者に共通しているのは、自然言語(人間の話し言葉)でコミュニケーションをする点だ。

 人と会話できる人工知能、というと聞こえはいいが、これをコンピュータが行うのは簡単なことではない。本物の人間同士のコミュニケーションはさらに高度な行動で、言葉の内容や背景の意図に加え、相手の表情や声のトーンなど、さまざまな情報を同時に処理しながら言葉を紡いでいるからだ。

 果たしてドラえもんや鉄腕アトムのような、人間と自然に会話ができる人工知能は本当に生まれるのだろうか。NTTで人工知能の雑談対話を研究している東中竜一郎さんに、対話技術の最先端を聞いた。

東中竜一郎氏プロフィール

 1999年に慶應義塾大学環境情報学部卒業後、2001年に同大学大学院政策・メディア研究科修士課程、そして2008年に博士課程を修了。博士(学術)。

 2001年に日本電信電話株式会社に入社。現在はNTTメディアインテリジェンス研究所に所属し、「しゃべってコンシェル」の質問応答機能の研究開発や、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトにおける英語科目を担当。人工知能学会理事・編集委員を務める。平成28年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞。

雑談できるロボットが必要とされる理由

photo NTTメディアインテリジェンス研究所 主任研究員 東中竜一郎さん。右にいるのは、Vstoneが開発したコミュニケーションロボット「Sota」

 東中さんは入社以来15年ほど、人間とコンピュータの対話システムを研究している。数ある研究の中でも、特に最近は対話システムの重要性が高まっているという。ソフトバンクのロボット「Pepper」に代表されるようにロボットの利用シーンが広がる中で、どんな状況でも対応できる対話システムが求められるようになったためだ。

 「接客や介護、秘書役といった細かな利用シーンごとにシステムを作り込んでいてはキリがありません。どんな状況でもある程度対応できるシステムを目指すのが現実的なアプローチといえるでしょう。その中で“雑談”というのは重要な意味を持ってきます」(東中さん)

 人間の会話は大半が雑談で占められている。明確な目的がある会話は4割程度で、残りの6割はいわゆる“雑談”なのだという。そしてこの傾向は、相手が機械であっても当てはまる。たとえ、相手が単なるシステムであっても、人は人間と会話するようにふるまってしまう。「Siri」や「りんな」を利用したことがあれば、そんな経験をした人も少なくないのではないか。

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