AIとシンギュラリティが情報セキュリティに何をもたらすかハギーのデジタル道しるべ(2/2 ページ)

» 2017年02月17日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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 基本的にAIは、人間が作ったプログラム通りにしか動けない。ただ、現在のAIがかつてと違うのは、人間が作った論理回路をベースにしているとはいえ、学習を多数実行し、いわゆる「定石」に加えて、圧倒的な量のパターンを生みだす点にある。将棋では、名人戦などように実際に人間と対戦したり、コンピュータ同士で超速度の対戦を行ったりすることで、シミュレーションのケースを学習していく。このようにしてナレッジベースを再構築したり、パターンテーブルを数兆通りも作り出したりすることが、論理的には可能だ。

 あるAI技術者によれば、AIの進化において「何手先を読むか」という論理設計もあるが、それよりも全体の論理を描画しながら、最もバランスの良い駒の手を考察することに取り組み。一部具現化しているという。それが具体的にどういうことなのか。筆者はあまり将棋に詳しくないが、多くの人にとってはそれが未知の領域に映るのだろう。

 AIの進化がもたらすシンギュラリティには、さまざまな定義があるが、「人間の脳がAIと融合するとき」「人間の脳のニューロン構成密度をしのいで知性や自我に目覚めるとき」といった状況を迎えるのが、2045年だとか、2035年にもその兆候が現れるなどと言われている。

 そうした中、情報セキュリティの狭い分野においてさえ、現在の暗号が一瞬で破られるといわれている「量子コンピュータ」の存在が無視できないものになっている。現状の認証方式も同じで、認証が役に立たないという状況もすぐそこに来ているという専門家もいるほどだ。こうした混沌とした状況は、今後どうやって進むのだろうか――。

 一部の学者は、AIによって現在の雇用や政治経済が劇的な崩壊を迎え、大きく変化すると予測している。AIが1つの人格を持つ人工物となった先に、もはや「愚かな一手」は通用しないだろう。筆者は、シンギュラリティの世界において、この人工物(AI)と自然物(人間)の境があいまいになるだろうと想定している。人工物の方が優秀なら、手も足も人工物に置き換わる時代が訪れるかもしれない。そう考えると、いまは人間の手や足に頼り切らざるを得ない情報セキュリティでも、「シンギュラリティ」としての技術的特異点が必然的に発生するだろう。その先にあるのは、人工物にまるごとセキュリティを“おまかせ”今とは異なる世界かもしれない。

 現在、こういう“地殻変動”の1つが金融界を中心に起こりつつある。だが当事者たち、特に地方の金融機関はこの現実に目を背けているところが多い。AIだけでなく、FinTechやIoT、ブロックチェーンなどのキーワードも具現化された“地殻変動”の後の世界を想像してみると面白いが、目前の融資案件だけを見ている多数の金融マンには見えないのかもしれない。しかし確実にこの“地殻変動”は進行し、2、3年後には大きく変わっているだろう。

AIによって引き起こされるシンギュラリティ後のセキュリティは明るい世界なのか?(画像はイメージです)

 この“地殻変動”の延長に、シンギュラリティが鎮座しているのかもしれない。多くの人の予想を覆す全く別の世界が出現しているかもしれない。現在は、その変化の真っただ中にあるとても面白い状況だ。現在の情報セキュリティにおいては、サイバー攻撃や内部犯罪といった脅威に抜本的な対応を打てないでいるが、そんな状況もシンギュラリティ後の世界では激変しているかもしれない。現在のAIがすぐに期待できないものだとしても、その先にある未来を見据えることが、今なすべきことだと思う。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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