Bluetooth SIG責任者が今だから語る、Bluetooth 5仕様の真実Computer Weekly

対応機器も発表され、普及への一歩を踏み出したBluetooth 5。その仕様やセキュリティ、IoTでの利用について、Bluetooth仕様の推進団体で開発者プログラムの責任者を務めるヘーゲンデルファー氏に聞いた。

» 2017年06月07日 10時00分 公開
[David McClellandComputer Weekly]
Computer Weekly

 「Bluetooth」はほぼ全ての面で成長している。2000年代初期のストレスがたまるハンズフリーから、未来につながる柔軟なIoTプラットフォームへと進化している。

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 Bluetooth 5は、ユビキタスワイヤレス標準の最新バージョンだ。Bluetooth SIG(Bluetooth仕様の推進団体)は、2016年12月にBluetooth 5にゴーサインを出し、最初の互換機器が「2〜6カ月以内」に提供される可能性があることを示唆した。それから約3カ月後、Samsung ElectronicsがBluetooth 5をサポートする最初のスマートフォン「Samsung Galaxy S8」を正式発表した。

 Bluetooth 5は接続した機器に何をもたらすのか。Bluetooth 5はIoTを展開する開発者をどのように支援するのだろうか。メッシュネットワークが仕様に含まれないのはなぜなのか。Inspect-a-Gadget(Computer Weekly内ブログ)は、Bluetoothチームのメンバーにインタビューし、Bluetooth技術の最新バージョンの実情に迫った。

3倍の仕様

 Bluetooth 5のヘッドラインは、前世代のBluetooth 4.2と比較して次のようにまとめられている。

  • 速度が2倍
  • 範囲が4倍
  • スループットが8倍

 われわれは、マーケティング資料に切りのよい数字がある場合、特に絶対値がないときは疑い深くなる傾向がある。Bluetooth SIGで開発者プログラムの責任者を務めるスティーブ・ヘーゲンデルファー氏は次のように説明する。

 「Bluetooth 5には、チームメンバーが長い間求めてきた進化が含まれている。それは、帯域幅の向上、範囲の拡大、パケットサイズの増加だ。速度は分かりやすく、1Mb/sが2Mb/sになった」(訳注)

訳注:次のパラグラフで説明されている通り、ここの「Mb/s」は厳密には「Mbps」を意味しないため、「Mb/s」とした。

 同氏によると、実際には1秒当たり1Mbitではなく、1秒当たり1Mシンボル(訳注)だが、目安としては基本的に変わらないという。「ただし、2つは同時に成り立たない。範囲を4倍にすれば2Mb/sにはならないだろう」と同氏は続ける。

訳注:シンボルはデータの変調信号の単位。

 範囲を4倍にすることについては、ヘーゲンデルファー氏は次のように話している。

 「絶対的な範囲はないと考えている。Bluetoothオーディオなら7〜10メートルだ。Bluetooth 4 LEの実効範囲は約100メートルだが、通信状態が良ければさらに広がる。だが、この範囲はもっと広がる可能性がある。無線状態にもよるが350メートルは可能だった」

 では、Bluetooth 5はどうだろう。「ドローンを使って実験してみたところ、範囲は700メートルを大きく上回った」

広い範囲

 ヘーゲンデルファー氏が話したテストは、チップセットメーカーNordic Semiconductorが実施した。同社のチームがトロンハイムの丘からBluetooth 5で制御するドローンを飛ばし、信号がどこまで届くかを測定した。そのときの動画がYouTubeにある(注)。

注:ネタバレ。Bluetooth信号が途切れる前にドローンの操縦者が平常心を失う(最初の1分は早送りがお勧めだ)。

 Bluetooth 5の範囲拡大によって事態が変わり始める可能性がある。例えば、以前はWi-Fiや専用プロトコルを利用していたアプリケーションや機器が、オプションとしてBluetooth 5も選択できるようになる。その結果、電力消費量が抑えられ、統合が容易になるというメリットが生まれる。ヘーゲンデルファー氏が範囲を拡大する本当の目標の簡単な例として挙げたのは、壁の枚数には関係なく、(妥当な範囲であれば)家や庭の大きさに関係なく、「家全体」をカバーすることだという。スマートホームでは、技術的な理由でBluetooth 5を採用しないということはなくなる。

 仕様に戻ろう。最後の記載事項は、「スループットが8倍」だ。ヘーゲンデルファー氏の主張は簡単で、これまで31バイトだった「ブロードキャストメッセージ容量」が255バイトになったという。計算上は8.2258倍になっている。だが、Inspect-a-Gadgetが電話をかけたときシアトルはまだ早朝だったので、スティーブ(ヘーゲンデルファー氏)とマーケティングチームには少しのんびりしてもらうため、追求しないことにした。

 Bluetooth 5には相互運用と共存に関する機能もある。それがチャネルホッピングとスロットアベイラビリティマスク(SAM)だ。つまり、BluetoothはWi-FiやLTEと適切に連携するようになる。こうした機能は、ますます混み合うワイヤレス環境では重要だ。これら全てが、前世代のBluetoothと同じ電力量しか消費しない。

メッシュの作成

 Bluetooth 5に含まれないものの1つがメッシュネットワークだ。堅牢(けんろう)な分散型IoTの重要なトポロジーとして頻繁に挙げられるのがメッシュネットワークだ。これは範囲を広げ、接続できる機器の数を増やす。これを含めないことにはいささか当惑している。

 「重要なのは、メッシュとBluetooth 5が別物であることを理解することだ。当初、メッシュはBluetooth仕様に含まれていなかった。メッシュを設計している開発者は、Bluetooth 4や現在既に存在する機能とメッシュを連携させたいと考えたため、多くの機器がメッシュ互換になっている」

 ヘーゲンデルファー氏によれば、メッシュはLE(Low Energy)機器で構築されるため、メッシュ互換ではないBluetooth 4機器もあるという。その上、メッシュ互換にするにはファームウェアの更新が必要になることが多い。だが、できる限り広範囲のインストールベースに対してメッシュネットワークをオープンにするという考え方は歓迎だ。

 それがいつになるかは「今は言えないが予定はある」と同氏は話す。「恐らく、2017年の早い時期には実現するだろう」

セキュリティ

 セキュリティはネットワークに接続する全ての機器にとっての懸念事項だが、IoT機器には独特の課題が存在する。暗号化を始め、通信のセキュリティ確保に伴う手間のかかる全ての作業は、低電力、低コストの機器にとって貴重なプロセッサ、速度、RAM、バッテリーなどのリソースに大きな影響を与える。「コストがかかることは明らかだが、今後はセキュリティがますます重要になる」とヘーゲンデルファー氏は話す。

 仕様の点では、Bluetooth SIGは傍観者的アプローチを好み、セキュリティレベルの選択を機器メーカー任せにしている。「メーカーは自社製品や顧客を把握した上で、セキュリティを徹底的に築き上げるべきだ」とヘーゲンデルファー氏は語る。「メーカーがプラグインできる帯域外セキュリティモデルは用意しているが、適切なレベルのセキュリティの選択はOEMに任せている」

 とはいえ、確かにメッシュネットワークには異なるアプローチが必要になる。「セキュリティはBluetoothメッシュ設計の根底にある。そのためセキュリティを強化することになるだろう」

BluetoothとIoT

 ヘーゲンデルファー氏によれば、2021年までに機器の数が480億に拡大すると見込まれるIoTを支えるために、Bluetoothを適切な位置に据える要素が幾つかあるという。

 「Low Energyは非常に重要だが、Bluetoothがあらゆる場所で使われることも重要だ。開発者の立場では、実装コストがかからず、ドングル、ゲートウェイ、周辺機器のアドオンを利用者に求めないことが重要だ」

 Bluetooth 5の3つの大きなパフォーマンス向上は、必要な電力があまり変わらないという4つ目のメリットももたらす。補間的なワイヤレスプロトコルと、前世代Bluetooth機器と互換性のあるメッシュネットワークの保証を適切に調和させることで、Bluetooth 5がIoTにもたらすものに開発者や利用者が興奮する多くの理由がある。

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