三度目の正直? ARM版Windows 10は離陸するのかEnterprise IT Kaleidoscope(3/3 ページ)

» 2017年07月12日 13時00分 公開
[山本雅史ITmedia]
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Snapdragon 835を採用することで得られるメリット

 ARM版Windows 10は、最初はQualcommのSnapdragon 835が動作プラットフォームとなる。Windows 10 MobileがサポートしているSnapdragon 820/617は対象外となりそうだ。

Snapdragon 835 Snapdragon 835は、10nmプロセスで製造され、30億トランジスタを使ったSoCとなっている(Qualcommの発表資料から転載)
Qualcomm Snapdragon 835 Mobile PC Platform Prototype Circuit BoardCompeting Commercial Circuit Board Snapdragon 835を使った基板は、ライバルの基板よりもコンパクトにできている(写真=左)。これは、Snapdragon835がスマートフォンで使えるように、さまざまな機能を1チップ化したSoCになっているからだ(Qualcommの発表資料から引用)

 Snapdragon 835は、Qualcommのプロセッサとしてはハイエンドモデルとなるため高コストだ。実際、Snapdragon 835を使ったスマートフォンは、軒並み10万円ほどの製品となっている。

 Qualcommでは、ARM版Windows 10が動作するプラットフォームとしては、2in1タブレットもしくは、超薄型で軽いノートPCになると予想している(スマートフォンなどのカテゴリーではない)。また、Snapdragon 835を採用したスマートフォンの価格から見れば、10万円〜15万円ほどの値段になるのではと予想される(製品のスペックによっては、10万円を切る製品があるかもしれない)。

 OSは、Windows 10 Mobileなどと同じく、PCにプリインストールする形で入ることになる(ARM版Windows 10のパッケージやARMプロセッサを使用したマザーボード単体は販売されないだろう)。

 価格面からみれば、IntelのCore MシリーズやCore iシリーズを搭載する製品とそれほど変わらないだろう。ただ、ARM版Windows 10では、Snapdragon 835プロセッサと通信チップのX16の組み合わせが利用できるので、常にネットワークに接続できるノートPC/タブレットになるだろう。

X16 Snapdragon 835と一緒に使われる通信チップのX16は、LTE Advanced Proをサポートすることで1Gbpsもの通信スピードを実現する(Qualcommの発表資料から転載)

 Microsoftは、Computexにおいて、Always Connected PCというコンセプトを打ち出している。スマートフォンで使われている、Snapdragon 835プロセッサとLTEをサポートした通信チップX16の組み合わせにより、常にネットワークに接続していても、長時間のバッテリー動作を可能にする(Always Connected PCは、Qualcommだけでなく、Intelとも協力している)。

 Always Connected PCは、eSIMを搭載することで、SIMカードを入れなくても、Windows上から通信キャリアとの契約もできる。海外に持っていったときにも、海外の通信キャリアが旅行者向けの料金プランを用意していれば、その料金プランを契約するだけで、すぐにでも海外で通信を行うことが可能になるかもしれない。

 ARM版Windows 10を搭載したPCやタブレットは、Lenovo、HP、ASUSなどが2017年の年末商戦までに発売する予定だ。

Connected Standby Sanpdragon 835を使ったデバイスは、Connected Standbyにより、スタンバイ状態で通信を行ったり、Cortanaに話しかけることでデバイスを起動したりすることができる。さらに、低消費電力を実現している(Qualcommの発表資料から転載)
Connected Standby Snapdragon 835のConnected Standbyは、ライバル企業のプロセッサよりも省電力化が行われている。同じバッテリー容量でも、ライバルのプロセッサより4〜5倍の長時間スタンバイが維持できる(Qualcommの発表資料よりから転載)
Snapdragon 835 and ARM版Windows 10 ARM版Windows 10とSnapdragon 835を使った製品は、当初超薄型、軽量のノートPCやタブレット(2in1)で発売されるだろう

 ARM版Windows 10については、企業では当面は様子見になるだろう。MicrosoftはフルスペックのWindows 10だと言っているが、実際にリリースされるまで、本当に制限がないのか、といった点を確認する必要がある。また、社内で利用している業務アプリケーション(Win32)が本当に動作するのか、満足いくパフォーマンスで動作するのかなどもチェックする必要がある。

 ただ多くの社員は、Officeソフトなどを利用していることが多いため、ARM版Windows 10でも問題は少ないだろう。独自開発の業務アプリケーションも、マルチデバイス対応ということを考えれば、Webアプリケーション化されているなら、問題は起こらないと思われる。

 ARM版Windows 10は、なによりも低消費電力で高い性能を持つARMプロセッサと、各国キャリアの認証を取得しているQualcommの通信チップを使うことで、全世界どこに行っても通信しながら、バッテリーで長時間動作するPCやタブレットが手に入ることが強み。この点は、企業にとってもメリットがある。

 不確定要素としては、IntelがARM版Windowsでのx86エミュレーション機能に関して、自社の権利を侵害している可能性があると懸念していることだ。最終的に製品がリリースされていないため、懸念という状態だが、製品化された時に訴訟も辞さず、という態度を表明している。このあたりは、実際にARM版Windows 10がリリースされてからの推移を見守る必要があるだろう。個人的には、MicrosoftとIntelが何らかの折り合いを付けると思っている。

 まずは、2017年の年末商戦にでてくる製品を見る必要がある。2018年にはARM版Windows 10が動作するプロセッサの種類も増えてきて、低価格化していくだろう。本格的に企業で導入するなら、2018年から2019年になるのだろう。

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