AmazonとMicrosoftが、AI音声アシスタント同士の提携を発表。いったいどんな狙いがあるのか。
この記事は大越章司氏のブログ「Mostly Harmless」より転載、編集しています。
AmazonとMicrosoftが、AI音声アシスタント同士の提携を発表しました。
こちらの記事では「AlexaとCortanaの会話」という表現を使っていました。「会話」というと少し違和感があるように思いますが、AIそのものを統合するわけではなく、Alexaが理解不能な場合や他者の意見が必要になったときに、Cortanaに(APIなどを通じて)問い合わせをする(あるいはその逆)、という構図のようです。
この2社は得意分野が異なっており、提携によって相互に不足するところを補完できるということでしょう。
認識精度については、ある調査によると、Alexaが質問を認識する精度は2割程度でGoogleの7割には遠く及びません。確かMicrosoftとの比較でも、Alexaは負けていたはずです。
つまり、AmazonにとってはMicrosoftとの提携によってAlexaの認識精度が上がることが期待できるわけです。それでは、Microsoftにとってのメリットは何なのでしょうか?
Amazonにしてみれば、他社と提携しようがAIを外部に頼ろうが、Alexaというプラットフォームが強化されれば、Alexa経由での売り上げが増え、そこからAmazonへの収益が生まれることになります。先ほどの記事」では、Alexaが、AppleのSiriやGoogle AIと提携する可能性も示唆しています(具体的な動きはないようですが)。
一方、Microsoftにとっては、今回の提携で直接的かつ即効性のあるメリットはないように思えます。それにもかかわらず、なぜMicrosoftは提携に踏み切ったのでしょうか。
私は、その答えは“学習データの収集”にあるのではないかと考えています。
AIは、まだまだ発展途上で、精度を向上させるためには膨大な学習データを用意して、強化しなければなりません。学習データはネット上にも大量にありますが、他社との差別化のためには、独自のデータをどれだけ集められるかが勝負となります。
この点、Microsoftは、同業他社に比べて若干、弱い立場にあるように見えます。Googleには、日々、大量の検索キーワードが入力されていますし、YouTubeにも人間には見きれないほどの膨大な動画が投稿されて続けています。Appleにも、全世界のSiriから音声データやコンシューマーの行動データが集まっています。Facebookには、エンドユーザーの書き込みや写真が大量に投稿されます。これらは全て、AIの学習データとして有効であり、なおかつ「他社には共有されないデータ=差別化の源泉」となります。
Cortanaを使える「Windows 10」搭載PCは世界に5億台あるといわれていますが、PCに向かって話し掛ける人はまだ少ないでしょう。
しかし、モバイルデバイスで失敗し、検索エンジンのシェアでも伸び悩んでいるMicrosoftは、何としてもコンシューマーのデータに直に触れられる機会を増やさなければなりません。
Amazonとの具体的な提携内容は分かりませんが、Microsoftにとって、Alexaからのデータが流入してくることは、魅力的なはずです。こちらの記事によると、2017年末までに米国内におけるAI音声アシスタントデバイスの出荷台数は3300万台に達するということです。おそらくその多くがAlexaベースになるでしょうから、Microsoftにとってのメリットは大きいと思われます。
いよいよ日本企業からもスマートスピーカーが発表され、市場が賑わってきました。
ソニーもパナソニックも、スピーカーやマイクは得意分野でしょうから、本家のスピーカーより良い音質が期待されます。
ただ、残念ながら、ソニーとパナソニックの製品の“頭脳”はGoogle製になってしまったようです。Windows PCやAndroidの場合と同じ構図で、日本の担当はハードウェアで、ソフトウェア(頭脳)は米国頼り、ということなのでしょうか。
海外では10月以降の発売ということで、12月発売のAppleの「HomePod」も含め、2017年内に一気にラインアップが増えそうです。
Amazon.comのジェフ・ベゾスCEOも、この分野に期待を寄せており、人工知能の開発に1000人以上を投入したということです。
一方で、米国でのAI音声アシスタントデバイスの販売台数を紹介した先ほどの記事では、Alexaのスキルをインストールしたユーザーが2週間後もそれを使い続けている率は3%と指摘しており、“興味本位で買ったはいいが、持て余している”というのがエンドユーザーの実態なのかもしれません。
Alexaが、“面白そうなおもちゃ”の域を超えて、本当の成長軌道に乗るためには、もう一歩の進化が必要なのかもしれません。
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