今でこそ、優秀な若手が能力を存分に発揮できる会社へと成長したが、そこに至るまでには大きな苦労があったと柴田氏は振り返る。
所属していた投資会社がネットプロテクションズを買収し、最初は出向という形で送り込まれた時、柴田氏は20代半ば。15人ほどいた社員たちはみんな10歳以上年上で、誰も言うことを聞いてくれなかったという。
「サービスもまだ立ち上がっておらず、株主からは『早く事業を伸ばせ』と叱られ、社会からは『後払いのサービスなんてうまくいかない』と批判され……。四面楚歌のスタートでした」(柴田氏)
柴田氏が入った翌年に現CTOが入社し、そこから2人で事業を動かすようになった。最初のうちはCEOとCTOが全てを決めて現場に指示するトップダウン方式で組織を運営していたが、事業規模が拡大するのに伴い、現場に権限委譲しないと立ち行かなくなってきた。しかし、それができる体制づくりが、非常に困難だった。
「人が辞めた分の人材を穴埋めしようと思っても、組織の雰囲気が良くないので採用力が弱いんです。やっと入ってくれても『こんな会社、やってられない』と反発したり辞めたりする人が多く、自転車操業状態が続きました」(柴田氏)
風向きが変わり始めたのは、2007年頃だった。主力サービスの「NP後払い」が開始から5年で黒字化。「これでいける」と確信し、その先にあるビジョンを語れるようになったのだ。その年から新卒採用を始めたところ、魅力的なビジョンに共感した意欲のある若者が入ってくるようになった。
ただ、それから数年の間は、新卒で入った若者が定着しない時期が続いたという。経営トップが語るビジョンと、メンバーの意識との間に乖離があり、せっかくやる気をもって入社した人たちをうまく生かしきれなかったのだ。
それでも、新卒や中途入社で少しずつビジョンに共感する社員が増えてきて、古い勢力をしのぐようになってきた。柴田氏は「最初の10年くらいは、多数派を占めるための権力闘争でした」と苦笑する。
転機は、2012年から1年かけて、全社員で会社のビジョンを議論したことだという。その結果、生まれたのが、同社の採用基準であり、行動基準である「7つのビジョン」だ。
実は同社には、7つのビジョンができる以前から、「5つの価値観」という行動規範があった。
「『5つの価値観』は今でも採用基準のベースになっていますが、これに合致するだけだと、どういう組織を是とするかは人によって考え方が違うんです。学生の場合、自然に『7つのビジョン』のような考え方をしている人が多いのですが、社会に出て一般的な企業の常識を知った人は、こちらの思いとはズレた組織のイメージを持っていることが多いんです」
柴田氏が目指すのは、上下関係がなくフラットで、個人の意志が尊重され、社員それぞれがのびのびと力を発揮できる組織。一般的なピラミッド型の組織とは全く異なるため、イメージするのが難しいが、「7つのビジョン」を策定したことで組織の具体的な姿を共有できるようになったという。
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