創業70年目の挑戦 農用機器メーカー「ネポン」がクラウドサービスを進化させる理由新規農家をAIで救いたい(2/3 ページ)

» 2018年06月25日 12時00分 公開
[高木理紗ITmedia]

クラウド化を阻んだ最大の壁は、テクノロジーではなかった

 農業の主体が手作業だった時代は遠く過ぎ去り、「一定の利益を出すために、1ヘクタール規模の大規模な農業ハウスの運営やスタッフの管理が当たり前になった。『工業化する農業』にとって、ICTによる制御は不可欠」と、太場氏は語る。

 アグリネットのユーザーには、ある程度の品質を維持した安定的な生産を望み、栽培データを使ったPDCAを回して生産性の改善を図ろうとする農家が多いという。また同社では、イチゴやトマトなど、特定の農産物栽培に特化したいわゆる「篤農家」向けには「特注7割、商用3割」のバランスで細かい機能を用意し、そのニーズに応えている。

altalt 「アグリネット」の制御画面の例。各農家がニーズに合わせて各機器の「正常値」の値を設定でき、細かい制御が可能だ

 一貫して農家に寄り添う姿勢は、同社のクラウド進出を阻む壁を打ち破るきっかけにもなった。アグリネットの発表当初、同サービスの展開に積極的だった福田晴久社長の意向とは裏腹に、機械の販売に慣れ切った社内の営業からは「うちはいつからコンピュータ屋になったんだ」と批判の声が上がり、全く支持が得られなかったという。

 そこで開発チームは、複数の農家を回ってアグリネットを使ってもらい、製品を改善しつつ、逆に農家から同社の営業マンに製品の良さをフィードバックしてもらう作戦に出た。その結果、従来は機器を注文するだけだった顧客が、農業ハウスの建設段階から機器の選定や環境づくりを相談してくるようになり、「単なる機器メーカーから生産者のビジネスパートナーへと成長を遂げるきっかけにもなった」(太場氏)という。

サービス開始から数年で、「IBM Cloud」で新機能構築を目指す理由

 そんな同社は、従来使っていた他社のクラウドに加えて、2018年4月に「IBM Cloud」を導入し、AI活用サービスなどを含むアグリネットの新機能構築へ動き出した。

 多くの農家が1つのハウスの中で異なるメーカーの機器同士を併用する環境で、スムーズにデータを連携させる課題が浮かび上がっていた。この課題を解決するには、複数の異なる要素を互いに独立性が強い状態でつなげる、いわゆる「疎結合型」のネットワークを実現できるプラットフォームが前提だった。

 また同社では、将来的に生産者から栽培データや環境データを収集して得た細かい知見をAI(人工知能)で活用したいと考え始めていた。従来、ネポンではRDB(リレーショナルデータベース)でデータを蓄積していたが、「いつ何が起こり、生産者が何をしたか」といった細かい栽培データで機械学習を行う場合、シンプルな時系列データが向く。こうしたニーズを踏まえ、さまざまなベンダーのクラウドを検討した結果、ネポンが選択したのは、人工知能「IBM Watson」との連携が可能なIBM Cloudだった。

 「必要なサービスをそろえ、オープンテクノロジーでベンダーロックインを回避でき、かつAIエンジンと連携させやすいシステムを構築できる点が良かった」と、太場氏は話す。Watson活用などに向けて、IBMの担当者から手厚いサポートを得られた点も選定を後押ししたという。

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