日本マイクロソフトは、医療や製薬などのヘルスケア分野に特化した新しいクラウド推進策として、「働き方改革支援」「先端技術との連携」「コンプライアンスおよびセキュリティ」の3点を強化した戦略を打ち出した。同社が掲げる“医療現場にとってのクラウド化のメリット”とは、一体何なのか。
日本マイクロソフトは2018年9月4日、医療や製薬などのヘルスケア分野のデジタルトランスフォーメーションを進めるための新戦略として、「働き方改革支援」「(AIやIoT、複合現実などの)先端技術との連携」「コンプライアンスおよびセキュリティ」の3点に注力した、いわば“三位一体の戦略”を発表した。2018年10月には、クラウドとヘルスケア向けの新技術の連携に特化した「デジタルヘルス推進室」を設置するとしている。
「これから3年間で、医療・製薬業界向けのクラウドの売上比率を、現在の4割程度から7割まで上げたい」――同日に開かれた記者説明会で、日本マイクロソフトの医療・製薬営業統括本部長である大山訓弘氏はそう語った。
同社によれば、国内の医療機関ではオンプレミス環境でシステム運用を行うケースが多いという。同社は、全世界で医療向け技術を扱うMicrosoftのパートナー企業と連携し、クラウドを通じて日本の医療分野における先端技術の導入を進めたい考えだ。
また、今回の戦略の一環として、同社では、オフィススイート「Office 365」やコミュニケーションアプリ「Microsoft Teams」などを活用した、医療機関における事務作業や連絡作業といった、いわゆる医療行為以外の業務効率化を推進する。
実際にMicrosoft Teamsを使った働き方改革を進めている医療機関の例として、記者発表会では、済生会熊本病院を紹介した。
同院では、看護師が所属する看護部やレントゲン撮影などを担当する放射線部、臨床機器を扱う臨床工学部にMicrosoft Teamsを導入。朝夕でシフトを交代する際の申し送り事項や議事録、機器のマニュアル、セミナーなどの情報をアップロードすることで、多忙な作業の手を止めずにスタッフが必要な情報を共有できるようになり、業務の負担を減らしたという。
同院の中尾浩一院長は、「スタッフが患者と接する時間を増やすために、Teamsはこれからも役立つのではないかと期待している。法律やセキュリティ要件などが整えば、将来は各患者の治療情報など、厳密な管理が必要な情報もスタッフがTeamsでやりとりできるようになればいいと考えている」と語った。
2016年に発生した熊本地震でサーバルームが甚大な被害を受けたという同院では、今後は院内システムのクラウドへの移行を検討しているという。
一方、日本マイクロソフトが見据えるクラウド化のメリットは、災害対策にとどまらない。同社では、電子カルテや医療画像診断などの医療テクノロジーを扱う企業をはじめ、AI、IoTなどの先端技術に特化した企業やSIerとMicrosoftのパートナーシップを生かす方向性を打ち出している。Azureをインフラとして彼らのアプリケーションやサービスを医療機関に提供し、「日本では特にニーズが高い」(大山氏)という医療の高度化に貢献したい考えだ。
例えば、Microsoftのパートナー企業であるIntelligent Retinal Imaging Systemsでは、MRIやCTで撮影した画像をAIで自動的に3Dモデルに変換するMicrosoftの研究プロジェクト「InnerEye」を活用。糖尿病患者の眼底を撮影した画像から糖尿病網膜症の早期発見を行う画像診断支援サービスとして実用化した。
また、Microsoftの複合現実(MR)向けヘッドセット「HoloLens」を活用した医療向けサービスの実用化も進んでいる。手術前に患部の画像を共有してディスカッションできる医師向けの手術シミュレーションや、大学の解剖学の授業向けに、学生が人体標本の3D画像に近づいて確かめられるサービスなどだ。
厳密なデータ管理やセキュリティ体制の確保といった課題はあるものの、医療現場の“クラウド化”には大きな可能性がある――Microsoftをはじめとして、ITベンダー各社が医療の進化を支えようとしている。
「全世界から最新の知見を集約することで、日本のヘルスケア業界に貢献していきたい」(大山氏)
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