鯉河平蔵(こいかわ へいぞう)と識目豊(しきめ ゆたか)と道筋聡(みちすじ さとる)が食事をしている。
「この前はうまくいったな。警察の連中も感心してたぞ」
鯉河が道筋の方を向いて言う。
道筋はカレーを食べながら答える。
「あの手法は最近出てきたもので、仮想環境というテクノロジーがあってこそ成り立つ作戦です。昔だったら、費用がかかりすぎてできなかったでしょう」
識目が中華丼を食べながら言う。
「確かに、証拠保全も捜査も昔とは様変わりしているよな。デジタルフォレンジックの講習も、警察や軍関係の人で満員らしい」
鯉河がそばを手繰りながら言う。
「俺らも、常に進歩していかないといけないな。たのむぜ、エース君よ」
道筋が応える。
「任せてください。その代わり、皆さんも協力してくださいね。頼りにしています」
「おう」
鯉河と識目が同時に応えた。
春が近い。風はまだ冷たいが、日差しは温かさをはらんでいる。
去ってゆく人、新しい仕事に取り掛かる人。
早春はせつなさと期待にあふれている。
メイは、今まで一緒だった仲間に感謝する気持ちと同時に、新組織への手応えも感じていた。
会社に到着するなり、メイのスマホが鳴る。志路からだ。
「メイ、ちょっと来てくれ!」
そんな緊急コールにも、メイは動じなくなった。
そこでは、信頼できる仲間たちが、誰に言われなくとも自分のすべきことを自律的に行っているはずだ。
側線を備えた一つの生命体のように、CSIRTが会社の危機を回避する。
メイは自信を持って答える。
「すぐ行きます!!」
その顔は輝いている。
髪をふわりと浮かしながら走るメイの後に、春を告げる梅の香りが残った。
【「側線」 完 連載一覧へ】
イラスト:にしかわたく
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.