局地戦でAWSに勝利したMicrosoftとGoogleだが……AWS vs. MS vs. Google(第2回)

MicrosoftとGoogleがAWSから顧客を奪うことに成功した。AWSに対する小売業界の懸念と合わせるとAWSが劣勢に立たされているように見える。だが果たしてそれだけだろうか?

» 2019年03月20日 10時00分 公開
[Caroline DonnellyComputer Weekly]

 第1回(Computer Weekly日本語版 3月6日号掲載)では、小売業界におけるクラウドビッグ3の戦いにおいて、AWSが小売業者に敬遠されるという弱点を指摘した。

 第2回では、AWSから顧客を奪うGoogleとMicrosoftの動向を紹介する。

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マルチクラウドが正解でないとき

 利益競合に関する顧客の懸念を払拭(ふっしょく)する方法として、マルチクラウド戦略があるのは確かだ。だが、それがどの企業にも適しているわけではない。そう語るのはCCS Insightでエンタープライズリサーチ部門のバイスプレジデントを務めるニコラス・マクワイア氏だ。

 デジタル化してまだ間もない小売企業がほとんどで、中には多数のクラウドプロバイダーを試している企業もある。このアプローチは時間と共に現実的、経済的ではなくなる可能性があると同氏は話す。

 「AWSを使用するメリットが利益競合の懸念に打ち勝つかどうか、てんびんにかける必要があることに気付くかもしれない」(マクワイア氏)

 「小売企業のみならず、多くの企業がマルチクラウド戦略を取っている。だが、本気で市場に革命を起こして企業を変革するのであれば、マルチクラウド戦略にこのまま従い続けるべきか判断しなくてはならないときが恐らく来る」と同氏は語る。

 「好ましいクラウドパートナーを見つけ、その1社との関係を深めることを選ぶ小売企業もあるだろう。単一のプロバイダーと密接な関係を築くことによって、経済的なメリットがあるだけでなく、さらなるイノベーションを引き出すことができるからだ」(マクワイア氏)

 最近も、クラウドベースの電子商取引プラットフォームプロバイダーBigCommerceが、同社のサービスを使用してオンライン取引を実行している6万人以上の小売業者を「IBM Cloud IaaS」とAWSからGCPに移行した例がある。

単一ホストの利用

 BigCommerceは以前、IBM Cloudでインフラの大部分をホストし、ピーク時のトラフィックはAWSで対処していた。だが遅延やパフォーマンス上の理由で、同社は現在Googleと契約している。

 同社は本誌に次のように語った。「GCPに移行する決断は、主に顧客のためだ。顧客の所在地、顧客自身の顧客の所在地について考えたとき、GCPが適切だと判断した」

 「Googleは世界中に独自のファイバーを設置している唯一のホスティングプロバイダーで、海底ケーブルネットワークを持つのもGoogleだけだ。売り手が顧客にできる限り近い場所にプレゼンスを持てるという点で、これは特筆すべきだといえる。ネットワーク面から見たGoogleの物理インフラは、強力な差別化要素であると考えた」

小売業界に変革を起こすMicrosoft

 NRFのカンファレンスでは、MicrosoftがWalgreens Boots Alliance(WBA)と7年にわたるクラウド契約を結んだことを明らかにした。

 WBAは米国や欧州で医薬品や化粧品の著名なブランドを多数保有しており、ドラッグストアチェーンBootsもその1社だ。41万5000人以上の従業員を抱えるWBAは、ITインフラの「大半」をAzureに移行し、「Microsoft 365」を38万人の従業員に導入することにMicrosoftと共同で取り組んでいる。

 2社のプレス発表によると、この事業の重要な目標はヘルスケアを人々に届ける方法を変革し、より手が届きやすく、個人に特化した、手頃な価格のサービスを実現することだという。

 この契約の重大さを軽視すべきでないと本誌に語ったのは、Gartnerで調査部門のバイスプレジデント兼最上級アナリストを務めるエド・アンダーソン氏だ。同氏によると、パブリッククラウドへの単純なリフト&シフトよりも大きなことが起こっているという。

 「本件はAzureとMicrosoft 365の大勝利だ。これは『Microsoftの技術を使って小売業とヘルスケア業のリーダーと共にイノベーションを起こす』という数年に及ぶ取り組みであり、Microsoftの技術が変革的なデジタルソリューションの提供をどのように実現するかというビジョンを示す」と同氏は話す。

 「長期計画が何をもたらすかは明確ではないが、予定されている共同ソリューションが幾つか注目を集めるくらいには十分な詳細が明らかになっている」(アンダーソン氏)

 この契約が発表されたのは、Amazonがヘルスケア小売り事業への参入に組織的に取り組んでいる最中でもあった。現時点では、その一環としてオンラインドラッグストアのPillPackがAmazonに買収されている。

 2018年1月、Amazonは金融サービス大手のJP Morganと保険会社Berkshire Hathawayとの共同事業にも着手している。目的は、これらの企業が米国在住の従業員に提供するヘルスケアサービスの品質を高め、価格を手頃にすることだ。

 Amazonがヘルスケア業界の縄張りを荒らし始めているように見える。これがMicrosoftのクラウドに一括移行を進めるというWBAの決断に影響を及ぼした可能性も考えられる。

 Gartnerのアンダーソン氏は次のように話している。「利益競合を懸念して、AWS以外のテクノロジープロバイダーを検討する小売業者が多いことは想像に難くない。こうした理由からMicrosoftやGoogleなどのプロバイダーを選択する企業もあるだろう」

 「AWSも多くの小売業者を魅了することに成功している。AWSが小売業界での競争に絶対に敗れると決まったわけではない」(アンダーソン氏)

 そしてこれは明らかにAWSが示しておきたい見解だ。同社のスポークスマンは、本誌に次のように語った。「Amazonと競合する小売業者の大半は、AWSを何らかの方法で利用している」

 「多数の小売業者にAWSが選ばれ続けている理由は、最も機能的で機敏かつ最高のセキュリティとパフォーマンスを実現するテクノロジーインフラを使いたいと考えているためだ。明らかにAWSは小売業界をけん引している」

 「小売業界のユーザーは、他の小売業者との競合関係を気に留めることはない。移り変わりの激しいこの業界のエンドユーザーにとって大事なのは、その小売業者を利用することに納得できるくらい素早くカスタマーエクスペリエンスが進化しているかどうかだ。速度と容量が非常に重視される」

第3回(Computer Weekly日本語版 4月3日号掲載予定)では、競合他社をも魅了し顧客を獲得するAWSの底力と、Amazonへの圧力を強める規制を取り上げる。

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