数値化する世界のサバイバル術 -AI時代に求められる数理的素養とは-AI人材育成に欠かせない、たった1つの視点(2/2 ページ)

» 2019年09月27日 10時00分 公開
[安井昌男豆蔵]
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どのように数理的素養を身に付けるのか

 数学や統計学を体系的に勉強してきた人材は「目的の達成のためには、どのようなデータから、何を判明させればよいのか」というデータ分析のプランを描くことは、容易なこと(と言うか“普通”のこと)と考えるかもしれない。

 しかし、「数値化された世界」においては、そのような人材だけでなく、一般的なビジネスパーソンにも、ビジネスを行う「世界」についての理解を進めるために、数理的な素養および「課題解決のために、データを分析する」という視点が重要になる。だからといって、数学に関して莫大な時間をかけて学び直すということは現実的ではないだろう。

 そこで、豆蔵では下図のようなフレームワークを用いて、ビジネスにおいてデータ分析が必要になるシーン(以降、ユースケースと呼ぶ)から、学ぶべき数学的な項目を整理し絞り込んだ育成カリキュラムを作成し、ビジネス数学と称して提案している。

図3 ビジネス数学のフレームワーク(出典:豆蔵)

 このフレームワークは、まずユースケースを3×3のマトリックスでパターン化する。そのマトリックスのそれぞれのセルに、対応するユースケースを記入する。そして、各ユースケースに必要な数理項目(公式や数学的な理論など)を、対応するセルに配置する。要は「実際に使うビジネスシーン」から学ぶべき数学関連の項目を決定し習得していく、という体系である。

 マトリックスの横軸は、未来に起こることを予測する「未来(予見)」、リアルタイムでの異常値の発見などの「現在(検知)」、要因など過去に何が起こったのかを推定する「過去(診断)」という分析目的を時系列に沿って、項目として並べている。そして、縦の軸は「回帰問題」「分類問題」「最適化問題」といった、データ分析で「何を明らかにするのか(分析目標)」を示す問題種別を挙げている。

 マトリックスの横軸として時系列的に並べた分析目的の列と、縦軸にある問題種別(何を明らかにするのか=分析目標)の行が交差するセルにユースケースを記載することで、ビジネスシーンに登場するデータ分析の典型的な「(大まかな)分析目的」と「(大まかな)分析目標」をヒントとして把握し、同時にその分析手法として必要な数理項目も捉えられるわけである(注)。

注:上記したビジネス数学のフレームワークはニューラルネットワークのようなAIのユースケースまでカバーしたものではない。AIはデータを学習することで、より精緻な分析や判断を自律的に行える。このフレームワークは、そのような学習済みのAIの「使い方(ユースケース)」までをカバーするものではない。しかし、AIも「数値化された世界」におけるデータをもとに学習や判断を行う。AIをビジネスで「使う」ためには、その前提として、データ分析のユースケースを理解することは重要で、決して無駄なことではない。

 もちろんデータ分析の問題種別は上記の3つには限らないだろうし、分析目的も時系列的に「過去」「現在」「未来」とは捉えられない場合もある。このフレームワークは理論的な背景に裏打ちされた網羅性を持つものではない。ビジネスシーンにおいて「よく使われるだろう」という分析手法を、分析目的と分析目標から理解する手助けをするものである。

 確かに、現時点でビジネスパーソンに、高度な数学的知識が要求されるシーンは少なく、そのような計算やアドバイスは専門家にやってもらえればよい。しかし、多くの営業担当者が分析目的、分析目標を意識する眼を持つことで、さまざまなビジネスシーンにも「変革」が訪れるのではないだろうか。

 ビジネスパーソンは、数理的知識を使えるようにするため、上記したフレームワークといった合目的な手法を用いて、ビジネスに使える数学を身に付けるべきだ。数値化された世界が眼前にあるのにもかかわらず「ビジネスマンがデータ分析など勉強する暇があったら語学でもやっておけ」という輩がいれば、それは全くの時代遅れで役立たずだといえる。

 連載の初回はここまでだ。本連載は各回、筆者を替えてさまざまな観点でAI時代の人材育成について述べる。第2回は、今回述べたデータ分析のプロセスやフレームワークについて、具体例を交えてより詳しく紹介したい。AI時代の人材育成について、何らかの参考になれば幸甚だ。

 ちなみに、「数値化する世界」への各企業の対応について、DXを担当する最前線のエグゼクティブが知見やノウハウを解説する「豆蔵DXday2019」が10月25日に開催される。「人材育成」もカンファレンスの大きなテーマとして掲げているので、ぜひ足を運んでみられてはいかがだろうか。

企業紹介:豆蔵

情報化業務の最適化とソフトウェア開発スタイルの革新を推進するコンサルティングファーム。デジタルトランスフォーメーション関連ソリューションでは、ビジネスのデジタル化による事業の効率化、競合優位への判断、新製品や新サービスの創出に求められる高度なデータ解析、AI/機械学習に関するコンサルティングや人材育成を提供する。

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