「誰でも使える」ツールを作れ “営業の現場”で始まったデータ戦略は、なぜ30年間生き残れたのかCRMに学ぶ「戦略的データ管理」のヒント【前編】

「データ活用を見据えた効率の良い管理体制を、どう作ればいいのか」――。そんな課題に光を当てるヒントになるのが、1990年代からIT部門ではなく営業の“現場”を中心に広がっていったCRMだ。 Salesforce.comのインタビューから探る。

» 2020年07月17日 07時00分 公開
[谷川耕一ITmedia]

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 今、企業活動が「ニューノーマル」(新常態)への転換を迫られる中、企業がデータをいかに管理し、あらゆる部門の従業員が必要なときに活用できる体制を整えるかは重要な課題だ。だが、新旧さまざまなシステムを抱え、今ある設備のどこをどう変えればいいのかつかみにくい企業もあるだろう。

 そこで今「戦略的にデータを使う」技術がビジネスにどう定着してきたのか、過去から改めて捉え直してみたい。例として、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)を取り上げよう。販売の記録や取引先のキーパーソンの名前、顧客から製品へのフィードバック、サポートや修理の記録――。これらのデータは、従業員がシステムに入力し、活用するのがいまや当たり前になっている。顧客のデータやフィードバックを収集、管理、共有する、戦略的データ管理の“元祖”とも呼べるCRMは、PCが一般的ではなかった1990年代にどう始まり、その後も成長し続けられたのか?

 ITmedia エンタープライズ編集部は、CRMがこれまでたどった発展と今後の変化について、長年CRM業界に携わるSalesforce.comに取材を実施した。その内容を、過去からの歩みにフォーカスした前編、現在と今後の流れを取り上げる後編に分けて紹介していく。

1990年代、CRMを誕生させた「ワントゥワン」という呪文

 CRMの歩みを1990年代前半までさかのぼってみよう。当時は、営業支援や問い合わせ管理を行うコールセンターシステム、さらにはマーケティング活動支援のシステムなどがそれぞれの部署で個別に利用される時代だった。これはCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)の黎明(れいめい)期ともいえるが、この頃のこれらシステムの背景にあったのは「顧客」ではなくそれぞれの「業務の最適化」だった。

 これが1990年代後半に入ると、企業における顧客に対する意識が変わってくる。Andersen Consulting(現Accenture)が、書籍でCRMの概念を提唱したのも1998年だ。この頃から企業において顧客情報を中心にビジネスプロセスを見るようにすれば、ビジネスに新たな利益をもたらすとの考えが普及する。さらに「One-to-One」(ワントゥワン)というキーワードで、個々の顧客情報を活用した個別対応を重視するマーケティング手法も登場した。

 しかしながら1990年代後半のITシステムの能力は、まだ十分ではなかった。とりわけB2C企業が抱える膨大な量の顧客データとなると、効率的にそれを蓄積しハンドリングするのは難しかったのだ。

大量のデータ処理が“不可能”だったCRMが、それでも生き残れた理由

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