「DX銘柄」日清食品HDの情シスを支えるローコード開発ツールの秘密どの企業もまねできる内製化ステップをイチから教えます

DX銘柄に選定され注目を集める日清食品HD。その情報システム部門が推進する施策の一つがシステム開発の「内製化」だった。プロジェクトの中心人物に聞いた内製化の定着方法や効率の高め方は、われわれにもまねのできる、よく考えられたものだ。

» 2020年12月02日 10時00分 公開
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1 日清食品HDは長年のDX推進が評価され、経済産業省、東京証券取引所「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」にも選出されている。(出典:経済産業省、東京証券取引所「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020選定企業レポート」より)

 日清食品、明星食品などを傘下に置く日清食品ホールディングス(以下、日清食品HD)。即席麺市場を開拓した企業として国内では知らぬ人がいない存在であり、欧州や南北米州、アジア圏での人気も高い。特に最近はブラジル、ロシア、インド、中国といった新興国市場でもシェアを拡大している。好業績を受けて2020年8月には同社の時価総額が1兆円の大台に乗り、名実共にグローバルな食品メーカーの地位を確立した。

 同社の躍進を陰で支えるのがDX推進に向けたIT戦略だ。

 数年がかりでシステムの8割超を削減し、メインフレームの撤廃を達成した「レガシーシステム終了プロジェクト」は、2018年に経済産業大臣表彰を受賞して注目を集めた。2019年からは「Digitize Your Arms(デジタルを武装せよ)」をスローガンに、社内のDX推進を目指してグループ各社の従業員一人一人のデジタルスキルを高め、「生産性200%」を実現するための取り組みを推進している。この2019年からの社内DX推進をリードする一人が、日清食品HD 情報企画部 次長の成田敏博氏だ。

社内変革請負人、人と組織をどう変える?

 成田氏はもともとDeNAやメルカリで情報システム部門を統括してきた経歴の持ち主だ。「私の役割は、社内を広く見た上でデジタルの活用によって業務効率化できるところを見つけ出し、具体的な施策を遊軍的に実行すること」と成田氏自身が語る通り、日清食品HDでは組織内の「変革請負人」としてのミッションを持つ。

 日清食品HDは、成田氏が入社する前からDXの推進に力を入れており、基幹系業務システムの改革に加えて、働き方改革の一環としてタブレットPCの支給、グローバルでのコミュニケーション基盤の標準化、オンライン会議の導入、社内問い合わせへのチャットbot導入など、業務環境のIT化は進んでいた。

 そうした中で今後のDX推進に当たり足かせになりかねない、なつ印や規定の用紙を必要とする業務フローの改善は急務だった。そこで成田氏が日清食品HDに入社した直後に手掛けたのが「紙の業務フローをデジタル化する」というものだ。

2 日清食品HD 成田敏博氏。取材はリモートで対応いただいた

ITのプロがこだわった「内製化」とそれに適したローコード開発ツール

 業務フローのデジタル化を進めるに当たって成田氏がこだわったのが、システム開発の「内製化」だ。外部に開発をその都度頼っていては、環境の変化に素早く対応する機動力を欠いてしまう。

 そこで、成田氏はまず「情報システム部門のメンバーが自ら手を動かして開発できるようになること」を目指した。その次のステップが「情報システム部門が協力して、事業部門が当事者として開発に参加できる状況を作ること」だ。

 ビジネス環境が変化するスピードがますます速くなり、いつ何時突発的なリスクに見舞われるか分からない今、事業部門が必要とするアプリケーションをまずは自分たちでデザインできることの重要性が増している。事業部門のみで実運用レベルまで作り上げることは難しくても、事業部門が自分で手を動かしてやりたいことの仕組みを作れるようになれば、そこから先をIT部門やSIerが実現するとしても、その実現スピードは非ローコード開発ツールに比べれば圧倒的に速い。こうしたシステム面での即応性の獲得は、今や企業にとって最重要課題と言っても過言ではない。

 この構想を実現するために成田氏が目を付けたのがサイボウズのローコード開発ツール「kintone」(キントーン)だ。高度なIT知識がなくても、さまざまな業務システム(kintoneでは「アプリ」と呼ぶ)を開発できるクラウドサービスで、業種や職種を問わず幅広いユーザーに支持され、現在までに1万6000を超える企業・組織に導入されている。

4 kintoneとは?(出典:サイボウズ)

 システム開発の「内製化」を実現した企業の成功事例はよく目にすることだろう。「スキルのあるIT企業でさまざまな技術や知見があったからこそ実現したのではないか」「そう簡単に日本企業がデジタル感度の高い組織に変わるとは思えない」という見方をする向きがあるかもしれない。

 だが、もともと成田氏は情報システムやITの知識は豊富だったが、日清食品HDで社内のDXを推進する立場になった当時、ローコード開発ツールを使った業務改革の経験はなかった。それでも成田氏はチャレンジした。自分が理解することで情報システム部門内の理解を促進し、その知識を事業部門に展開するというシナリオだ。

 「ローコード開発ツールを使った開発は社内にも経験者がいませんでした。最初は自分が使い方を覚えるところから始まったのです」(成田氏)

 もっとも、成功への見通しは立っていた。前職でkintoneをユーザーとして利用した経験があり、その効果や使い勝手の良さは体験済みだったからだ。

「内製化」を支える、新しいSIerとの関係性

 内製化は、組織に定着するまでの負担が大きければ成功しない。日清食品HDの場合は、ゼロスタートからのチャレンジだったが、内製化する手前にある「苦労」をショートカットする方法は積極的に取り入れた。例えば「分かればできること」を理解するのに必要な時間は、知識のある人物を頼ることでショートカットできる。「一度体験すると分かる落とし穴」は、はまる前に理解すれば済む。この点で知見を持ったSIerに相談をしながら開発を進められるkintoneのサポートサービスは、内製化の推進と定着に大いに役立った。

 「今回の開発ではkintoneのシステム開発や業務改善について相談、サポートを受けられる『アドバイザリーサービス』を活用しました。自社でkintone開発を進める過程で、不明な点や外部の知見を取り入れたい場合に支援を受けられるので、内製化を進めながらも外部のサポートを得ることで、スピーディーな開発が可能になりました」(成田氏)

業務部門自らがデジタル化に取り組む文化を醸成するために

 開発開始からわずか半年ほどで、約70件の紙業務を電子化している。2020年度中には、社内の申請書類をほぼ全て電子化する計画だ。このスピードを実現したのはローコード開発ツールの特性であり、「情報システム部門が協力して、事業部門が当事者として開発に参加できる状況を作れたこと」による。

 「ワークフローは、事業部門や経理、人事、総務などの管理部門を横断して使うものです。情報システム部門のメンバーが聞き取りをしながらシステムの仕様を一から作るのでは、どうしても時間がかかってしまいます。そこで、最初に情報システム部門から各部門に個別でkintoneの説明をし、各部門が当事者としてどの業務を電子化するか優先順位を付けてもらいました。今はその順に沿って開発を進めています」(成田氏)

 現場を巻き込むといっても、本業のタスクがある従業員を開発に参加させるのは困難が多いはずだ。そこで仕掛けたのが、情報システム部門側からの行動を伴うメッセージ発信だ。

 開発に当たって、成田氏が重視したのは最初の打ち合わせに必ずプロトタイプを用意して臨むことだ。事前に現場とのやりとりで「こんなことをしたい」という話をラフに聞いておけば、ある程度動く試作品を用意することは難しくない。

 「事前に聞いた要望から、およその当たりを付けて担当が考えた解決策をプロトタイプでデモします。事業部門の担当者は、メールで簡単に事前情報を伝えただけにもかかわらず、実際に動くシステムができているのを目にすると、驚きとともに積極的に改善案を検討してくれます」(成田氏)

 プロトタイプ作りは、たとえそれをすぐに完成形に持っていけなくても、少ないコストで業務の新しい在り方を提示できる上に、同じものを見ながら一緒に改善していくことで、速く、精度の高い開発を進められるようになる。

5 kintoneのスピード感ある開発を実現する仕組み(出典:サイボウズ)

 また、最初に動くモノを見せることで「課題に対する解決策を迅速かつ具体的に提示してくれる」という印象を事業部門の担当者に持ってもらえることも重要だ。こうした空気感を醸成し、開発の最初に情報システム部門が事業部門の業務課題に寄り添って改善していこうとする意思や態度を見せる意味でも、プロトタイプを作りやすいkintoneはうってつけだったようだ。

3 従業員の手によるデジタル化、DX推進を推奨する「Digitize Your Arms」のスローガン

自主的にデジタル化すべき課題や解決策を考える人材が出現

 現在は事業部門の担当者が開発に関わるようになったことで、同じツールを使って業務改善を進めてみたいと手を挙げる人も現れ始めているという。

 自分たちが作ったツールでチーム全体の仕事を効率化できることに面白みを感じる従業員が増え、さらに勉強して使いこなそうという動きも生まれている。

 「当初は情報システム部門がこうした活動を促していたのですが、徐々に事業部門側でも自発的に進むようになってきました」(成田氏)

 DXを推進するためには、各部署や各個人が思い付いたアイデアを短時間で形にして、それを基に議論できる環境が欠かせない。そこで必要なのが、ちょっとした“アイデアの種”を発芽させて育てられる組織文化と、個人やチームが「思い付いたこと」をすぐ試せるプラットフォームだ。

現行業務をそのままデジタル化するのではなく大局的な視点で

 現場発のデジタル化で成田氏が目指したのが、現状の業務をなぞるだけのデジタル化にならないように、情報システム部門を調整役として機能させることだ。複数の部門に関わることで見える「標準化できる箇所」や「そもそも省略できるプロセス」「周辺業務と組み合わせて効率化できる方法」などを大局的な視点から提案する役割も重視している。

 事業部門からも類似の業務プロセスを統合しようという提案が出てきた。

 「商品開発部門の複数チームが、ほとんど同じ情報を別のツールで管理しているケースがありました。これらを一つにまとめられないかと各チームのメンバーが自発的に協議する動きも出てきています」(成田氏)

 部門を横断した改善は、予算や業務負荷の配分などの調整が足かせとなり、進みにくいのが一般的だ。同社の場合は経営トップの強いリーダーシップ下で会社全体がデジタル化を推進していることもあるが、従業員自身が「改善のアイデアをすぐに実現できそうだ」と想像できたことが自発的な改善提案につながったと言えるだろう。

 現在、同社の情報システム部門では8人がkintoneによる開発に携わる。加えて、各事業部門の10人以上の担当者が事業部門発の開発を始めている。1年前には事業部門からの参加メンバー全員が開発ツールに触れたこともなかったことを考えると、大きな変革と言える。事業部門で開発ができるメンバーは今後も拡大していく計画だ。

 「DXを推進する人材作りには、業務を変えていきたい、新しいビジネス環境を創り出したいという気持ちが必要なのはもちろんですが、その発想を自分で実行する“武器”を手にしてもらうことも重要です。課題が何かを意識していなかった人が、武器を持つことで実は自分の足元に課題が転がっていたことに気付くこともあります。私たちはその気付きを拾い上げ、それぞれが自分の武器で解決することを支援していきたいと考えています」(成田氏)

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2021年1月12日