「コロナ禍対応でDXが進む」言説は真実か、調査で読み解くIT革命 2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る

次のIT投資は「攻め」と「守り」のどちらに予算を割く企業が多いでしょうか。独自調査で見えてきたのは、日本企業のコロナ禍対応の現状と今後想定される「変化」の兆しでした。

» 2020年12月28日 08時00分 公開
[清水 博ITmedia]

「予算を増加させた企業」が「減少した企業」を上回る

 現在、市場で評価され株価を上げている企業は、医薬などのコロナウイルス対策関連や、巣ごもり需要の食品・小売関連、そしてニューノーマル(新常態)としてのテレワークを円滑にするデバイスなどのIT機器やITインフラ関連などの企業です。他の分野の企業は少なからずコロナ禍の影響を受け、苦しい状況に直面しているかもしれません。IT投資についても何らかの見直しがなされているのでしょうか。

 デル・テクノロジーズのサーバ部門が2020年9月に実施した「情シス意識調査」によると*、調査時点での企業のIT予算の変化については「増加」が「減少」を上回っている状況です。一般的に、IT予算は景気動向に同期するように増減します。しかし、ことコロナ禍においては2020年4〜6月にGDPが戦後最悪のマイナス成長率を記録する状況でしたが、IT予算は急激に止まることはなく、他の投資予算等に比較しても変化が少ないものになっているのではないかと思われます。

1

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社後、横浜支社でセールスエンジニアからITキャリアをスタートさせ、その後、HPタイランドオフィス立ち上げメンバーとして米国本社出向の形で参画。その後、シンガポールにある米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のマーケティングダイレクター歴任。日本ヒューレット・パッカードに戻り、ビジネスPC事業本部長、マーケティング統括本部長など、約20年間、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わる。全世界の法人から200人選抜される幹部養成コースに参加。

 2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ、世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。

 2020年定年退職後、独立。現在は、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。著書『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の他、経済紙、ニュースサイト、IT系メディアで、デジタルトランスフォーメーション、ひとり情シス関連記事の連載多数。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Shimizu1manITDX

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

*デル・テクノロジーズ データセンターコンピュート&ソリューションズ事業統括部門が2020年9月に情シス部門を対象に実施した調査。調査は全企業を対象にオンラインで実施し、356社からの回答を得ています。回答企業の割合は企業規模3000人以上の企業が26.3%、300人以上3000人未満の企業が46.4%、300人未満の企業が27.3%。


「守りのIT」をさらに「守る」ことに

 大きなマイナスがない状況とはいえ、IT予算の使途は気になるところです。もともと「守りのIT」予算が多く、「攻めのIT」予算が少ない傾向にあるとされる日本の企業においては、デジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するにはより積極的な「攻めのIT」の投資が必要になります。

 しかし投資の使途について調査したところ、「現状のITインフラの補修に費やす」と回答した企業が66%を占めていました。現状のシステムの補修や強化なので、「守りのIT」をさらに「守る」投資と言えます。本来であれば2020年は「デジタル元年」となり、IT投資が続くものと思われていました。このことからすると、投資の目的が変わった企業が多いと考えられます。

2

 コロナ禍以前の日本企業は、会社に来て仕事をすることが一般的だったため、外部からモニタリングしたりメンテナンスしたりするほどにはITインフラは整っていません。いままでは誰かしら情報システム部門(情シス)のメンバーが会社に在席していたので、何か問題があれば彼らが駆けつければよかったのです。長年情シスにいるメンバーは、自らデータセンターでサーバの基板を抜き差しして応急処置を取るような仕事をしてきました。また、情報漏えいを心配するあまり、外部からのアクセスをわざわざ制限していたこともありました。およそテレワークとは真逆の発想でシステムを構築してきたと言えます。

 PCの環境も同じです。情報を社外に持ち出しにくくしたり、仕事を家に持ち帰らせないために、あえてデスクトップを導入する組織もありましt。やむを得ず社外で仕事をしなくてはならない場合に備えて外部持ち出し専用のノートPCを用意する、といった施策はテレワークを否定するようなものとも言えます。

守りは最大の攻撃か

 コロナ禍で事業を継続するために、多くの企業が急ピッチでテレワーク環境を構築しました。テレワークが一般化した半面、テレワークによる業務遂行の難しさを感じることも増え、徐々にオフィスに戻る動きも少なくありません。ITインフラが整ったとしても、業務プロセスやワークフローがデジタルに対応していないことの多さに改めて気付かされたことも多いでしょう。例えば、押印を前提としたアナログな承認プロセスの仕組みを代替するのは容易ではありません。また、社員の一人一人のジョブディスクリプションが明確でない企業の場合は、マネジャーがリモートで部下を管理し難いことも、オフィスに戻る理由の一つようです。

 IT予算が増額したとしても、その使い道が守りのITをさらに守るためのものとなると、後ろ向きに思われてもおかしくありません。しかし、これだけ短期間で集中的に守りを固められたことは、次のステップへの移行に良い影響を与えているはずです。「攻めのIT」と「守りのIT」は二元論で考えられがちです。しかし歴史でもスポーツでも、守りを固めて堪えて、その後に攻めに転じることでよい結果に結び付く事例は多くの先達が示しています。

 テレトワーク対応で皆が悪戦苦闘する中で、会社の古い制度が瓦解し始めてきているのも事実です。この小さな変化が大きな変革につながり、数年後に「デジタルをテコにして企業競争力を高めるきっかけになった」と、振り返ることができるかもしれません。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ