DX人材に必要なスキルと、調査で見えてきた「今本当に必要なこと」IT革命 2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る

DXの推進には、ITスキルと、ビジネススキルの両輪が求められるようです。DXの現場に従事する情シスを対象にした調査からその詳細を探ります。

» 2021年04月23日 11時00分 公開
[清水 博ITmedia]

必要なスキルから見るDXの難しさ

 デジタルトランスフォーメーション(DX)を進捗させる上で最も重要な課題として挙げられるのは、人材の確保です。現在、多くの企業で、デジタル技術を活用する「DX人材」が不足しているとされています。この状況を裏付けるように、転職市場ではDX関連の求人が大幅に増えています。こうした人材不足の状況に加えて、DX人材はますます多様なスキルや広範囲の知識を求められています。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社後、横浜支社でセールスエンジニアからITキャリアをスタートさせ、その後、HPタイランドオフィス立ち上げメンバーとして米国本社出向の形で参画。その後、シンガポールにある米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のマーケティングダイレクター歴任。日本ヒューレット・パッカードに戻り、ビジネスPC事業本部長、マーケティング統括本部長など、約20年間、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わる。全世界の法人から200人選抜される幹部養成コースに参加。

 2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ、世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。

 2020年定年退職後、独立。現在は、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。著書『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の他、経済紙、ニュースサイト、IT系メディアで、デジタルトランスフォーメーション、ひとり情シス関連記事の連載多数。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Shimizu1manITDX

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

 デル・テクノロジーズがに2020年1月発表した「第2回 DX動向調査*1」では、企業の情報システム担当者(情シス)に「今後、身に付けたいスキル」を尋ねました。その結果、トップ10に挙がったのは、下図の通りです。

情シスが身に付けたいスキル(出典:デル・テクノロジーズ「第2回 DX動向調査」)

*1 「第2回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」(調査期間:2020年12月15〜31日、調査対象:従業員1000人以上の国内企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:661件)


 DXに活用される代表的な技術である「IoT」や「AI」「RPA」などが、上位にランクインしていたのは、事前に想定した通りでした。そして、それらのキーワードに割り込むように「データサイエンス」や「コミュニケーションスキル」「デザイン志向」などが挙がっています。

 この結果から、DXの推進には、技術そのものに関するITスキルと、ビジネススキルの両輪が求められていることが分かります。

 DXの取り組みは、新しいプロジェクトとして実施され、関連部門などを含めた全体的な調整から始める必要があるケースも多いでしょう。もともとDXの意味や位置付けは分かりにくく、ITリテラシーの高い人たちの間でもブレがある場合があります。組織横断的に職種も立場も違う人たちの理解を求めることは、容易ではないでしょう。

 また、プロジェクトの推進に当たっては、一度リリースすれば終わりではなく、継続的なプロジェクト運営を想定した高次元のデザインが求められます。さらに、社内に蓄積された膨大なデータからインサイトを導き出すための分析能力なども要求されます。

 つまり、DXの推進には、ITスキルだけではなく、ビジネス戦略や経営戦略に関わるスキルが求められており、どちらかというと後者の方が比重が高いということが、上述したDXの現場に従事する人たちの回答から読み解けます。

スキル習得への焦りが数字にも? スキルアップよりも今、重要なものは

 ITスキル、ビジネス戦略策定スキルというように、企業がDX人材に「スキル武装」を求めるようになった他の背景として、コロナ禍によるライフスタイルの変化が挙げられるでしょう。

 調査では、コロナ禍における情シスの「気持ちの変化」についても調べました。その結果は、下図の通りです。

コロナ禍での情シスの気持ちの変化(出典:デル・テクノロジーズ「第2回 DX動向調査」)

 コロナ禍のテレワーク対応で多忙を極めた情シス担当の方がいた一方で、テレワークになったことで通勤時間が減り、自分の時間が増えたため、「スキルアップに費やす時間が増えた」とする人が35.6%存在します。時間的な余裕ができたことで、おそらくDXに向けたスキルの準備を開始した人もいるものと考えられます。

 一方、必要なスキルを考える前提条件ともいえる「自身のキャリアデザイン」について、「展望が見えない」との回答している人は37.3%に上りました。コロナ禍で先行きが不透明な時代といわれる中、自身のキャリアの見通しを立てられない情シスが増えていることが分かりました。

 その上、非対面のコミュニケーションが増えたため、従業員同士のコミュニケーションの希薄化や、業務を進めにくく生産性の低下を感じるなど、テレワークのストレスが高まった人も34.2%存在します。

 DXの時代でも活躍できるスキル獲得を目指し、日々の研さんに燃える情シスの方も多いことでしょう。しかし、調査結果を見ると、現在は複合的なストレスが増加している方も少なくないようです。こうした結果を見ると、スキルアップも重要ですが、心を整えるための気分転換や切り替えのテクニックなどのスキルをゆっくりと確認することの方が、今は重要だと筆者は思います。

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