実は難しい「値付け」の力学〜納得感と収益の妥当なバランスを決める決定要因データで導くプライシングの技術(2)(1/2 ページ)

「スペックウォーク」(Spec-Walk)や「モデルウォーク」(Model-Walk)を駆使しても、それだけで値付けを決定できるわけではない。特にBtoB商材で長期間利用される商品のサポートサービスは値付けを決定する際に検討すべき要素が複数あり、売り切り商品と比べても合理的な価格決定が難しい。この問題をデータを駆使して解決するには、理解しておくべき前提知識がある。

» 2022年05月18日 09時00分 公開
[PwCコンサルティング]

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 本連載は「両利きの経営」の実現に向け、DX推進などの新しい取り組みと合わせて、いま「稼ぐ力」を高めるための施策の1つとして、データを駆使して合理的なプライシング(値付け)を実現する技術を紹介していきます。第1回は自動車OEMメーカーを題材に、現在の価格決定の課題を見ていきました。

 第2回の今回はBtoB商品の価格決定ロジックの考え方を解説します。

 コンシューマー商材やEコマースと同様に、BtoBビジネスにおいても、適切な収益を確保し、企業力を高めるために正確に原価と需要を把握して最適な価格を設定するアプローチが重要になってきました。売り切り型でバリエーションが少ない商材と比較してBtoBビジネスはこれらの判断に必要なデータの収集や意思決定のロジック設計が難しいとされてきましたが、昨今はその状況にも変化が見られるようになってきました。

 本稿は第1回と同様、長大なサプライチェーンを持ち、多数の部品類や複雑なオプション商品を提供し、比較的長期間のアフターサービスを展開する自動車OEMメーカーにおける、アフターセールス部材やサービスの価格決定の事例を題材に、プライシングの最適化で使われるロジックや課題を見ていきます。自動車メーカーを題材にしていますが、ここで挙げた事例は他の一般的なBtoB商材でも応用できるものです。うまく活用することで、従来と同じビジネスを展開する中でも収益力や顧客満足度を高められる可能性がある施策ですから、是非参考にしてみてください。

筆者紹介

石井元毅 PwC シニアマネージャー Industrial Products & Auto

製造業界を中心に多岐にわたるプロジェクトに従事。プロジェクト企画構想から、日本・海外へのシステム導入支援、要件定義〜開発管理、システム稼働後のBPR・組織再編の支援など、大規模かつ長期にわたるプロジェクトを数多く経験している。大手製造業むけ基幹業務および価格管理・販売管理プロジェクトをリードする。PwC製造業部門の価格管理Solutionの主担当として活動中。


奥村健一 PwC シニアアドバイザー Industrial Products & Auto

36年余の日系自動車OEMに勤務。AS部門でのビジネスプラン、価格戦略、SCM関連業務の経験が比較的長く、加えて新システム企画・開発・導入及び物流改革プロジェクトマネジメントも複数回遂行。またグローバル経験も豊富で、欧州に10年、インドに2年駐在した。特にインドでは日系自動車OEMの新配給店のアフタセール総責任者(VP)としてオペレーション、システムの立ち上げ、及び事業管理を担った。PwCでは主にAS価格戦略Projectを担当。


山西知之 PwC シニアマネージャー Industrial Products & Auto

日系自動車メーカー、グローバルコンサルティングファーム、独系自動車メーカーを経て現職。約20年にわたるインダストリーとコンサルティング経験を通じて自動車業界に精通。アフターサービスパーツの戦略的価格改定、自動運転モビリティサービス事業立上げ支援、インド市場調査を含めた新規参入サポート、独系OEMでのDealer Management System(DMS)刷新/改修、Ideal Network Planning(INP)、販売店標準会計基準改定、ディーラースタンダート改定/監査など構想から実行まで多数のプロジェクトをリード。

BtoB部品の価格決定ロジックはどう考えるべきか 現状の一般的な例

 本稿で題材にする自動車OEMメーカーの場合、アフターサービス(After-Sales)部品の価格設定(Pricing)向けカテゴリー分類は、各社の考え方によって多少の差異はあるものの、基本的には下図のようになります。

 この図で、「競合度」を一番左上に置いた理由は、価格設定ロジックに最も影響する要因が、競合度によって変化する「価格交渉力」だからです。

 競合度の高い「競合製品」(Competitive Products)に属するものには、車検や定期点検で使われる部品が挙げられますが、これらは多くの場合、OEMメーカーが供給する代替品で、ディーラー以外の自動車整備工場や自動車用品店などを通して世の中に出回っているものです。

 専用度の高い「純正部品」(Captive Parts)は、販売目的によって「事故部品」(主にパネルなのどの外装部品)と事故以外の故障や修理時に使用される「メカニカル部品」に大別されます。

図1 アフターサービス部品の価格設定向けカテゴリー分類(出典:PwC Japan)

Apple to Apple問題、支払いの当事者別の思惑を体系化する

 価格設定ロジックの基準の一つであるベンチーマークは、競合製品の価格評価によく用いられます。OEMメーカーが競合製品のベンチマークを行う場合、一般的には他のOEMメーカーの製品を比較相手に設定します。ここで浮上するのが、「理論的には同一条件、同一前提での比較分析」が求められるものの、実際には100%同じものを同じ条件・前提で比較するのは難しい」という問題(いわゆる「アップルトゥアップル〈Apple to Apple〉問題」)です。

 この問題をある程度解決する策として「同じ種類の部品」を比較しますが、その場合は、その部品が適用される車両も同等モデル(同じセグメント)であることが前提条件となります。つまりこのベンチマークに基づく基準で設定される価格は、あくまで「同等モデル用の同等部品」の価格であるという条件付きものとなります。

 一方の「純正製品」は単純に「できるだけ高い価格を付ければよい」と考えるかもしれませんが、以下の点に留意する必要があります。

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