中国の「デジタル人民元」をはじめ、中央銀行が発行するデジタル通貨に注目が集まっている。カンボジアはデジタル通貨「Bakong」(バコン)を2020年から正式運用しているが、実は技術を提供しているのは日本のスタートアップ企業であるソラミツだ。ソラミツはどんな経緯から参画することになったのか。開発ストーリーに迫る。
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日本生まれのスタートアップ企業が、一国の中央銀行のためにデジタル通貨のシステムを構築した――。こう聞くと「えっ、本当なの?」と思う人もいるかもしれない。例えば、みずほ銀行のシステム構築のために35万人月の巨大なマンパワーが投入されたことは記憶に新しい。いったいどんなマジックがあったのか。
その「本当のところ」を知りたい。そこでカンボジアのデジタル通貨「Bakong」(バコン)に技術を提供した日本のスタートアップ企業であるソラミツ 宮沢和正社長に話を聞いた。
ソラミツは2016年2月に設立された。今では複数の国にまたがるグローバル企業グループに成長している。同社の事業の中核となるプロダクトは、ブロックチェーン技術「Hyperledger Iroha」(ハイパーレッジャーいろは、以下Iroha)である。プライベートブロックチェーン、あるいはコンソーシアムブロックチェーンなどと呼ばれる分野の技術だ。
なお、Irohaはソラミツが元々の開発者だが、現在はオープンソースソフトウェア(以下、OSS)としてThe Linux Foundationが管理している。
IrohaはOSSとして提供され、誰でも無償で利用できる。そのため、ソラミツのビジネスモデルはIrohaの販売ではなく、Irohaを用いたシステムの構築支援や、システムを活用するビジネスへの参加(協業)ということになる。
ソラミツとIrohaにとって最初の大型事例が、カンボジア国立銀行(カンボジアの中央銀行)が運営するデジタル通貨およびモバイル決済サービスのBakongである。Bakongは2020年10月に正式運用を開始し、最初の1年でカンボジア国民の半数に当たる790万人が活用中だという。スマートフォンを利用する決済アプリとして利用でき、カンボジアの通貨リエルと米ドルの2種類の通貨を扱う。
なお、カンボジア国立銀行はBakongを「モバイル決済サービス」と呼んでいるが、その内容は各国が考える中央銀行デジタル通貨の構想と同様のものだ。そこで本記事では主に「デジタル通貨」という用語を使う。
一国のデジタル通貨を支える決済アプリの構築を日本のスタートアップ企業が担当した背景には、ブロックチェーン技術がある。ブロックチェーン技術の基本機能は「お金の移動」に関する堅牢なシステム基盤となることだ。この基盤を活用することで、スタートアップ企業のソラミツが、2年弱と比較的短い期間で決済システムを構築できたのである。
カンボジア国立銀行とソラミツの出会いは、にわかには信じ難い。2016年12月、メッセージングソフトTelegramを使ってソラミツに連絡を取ってきたのである。その内容は「カンボジア国立銀行は中央銀行デジタル通貨を発行したい。あなた方のIrohaプラットフォームでテストしたい」というものだった。
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