Z世代の離職をどう防ぐ? “データドリブン人事”の最前線を聞いた(1/2 ページ)

せっかく優秀な人材を採用しても、定着しなかったりなかなか戦力にならなかったりでは意味がない。企業が頭を悩ませるこうした人事領域の問題に、ソリューションはどう応えるのか。

» 2022年05月24日 08時00分 公開
[加山恵美ITmedia]

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 「企業は人なり」と昔からよく言われる。実際に仕事を支えるのは従業員一人一人だからだ。

 人事業務の中でも労務管理や給与などの定型業務なら、汎用(はんよう)的なシステムで効率化が見込める。しかし、採用や育成、配置、評価などになると、人間そのものの繊細さや複雑さが絡むため、どうしても属人化しやすい。ところが現在、こうした高度な人事領域にもデータを活用したソリューションが次々と生まれ、現場投入されている。

 人事を取り巻く昨今の環境変化について、リクルートマネジメントソリューションズ(以下、リクルートMS)の湯浅大輔氏(HR Analytics & Technology Labマネジャー)は4つのポイントを挙げる。

「データドリブン人事」って何? 導入を後押しする4つの変化

 1点目は経営視点からの必要性だ。経営との連動や説明責任を遂行するために、人事版DX(デジタルトランスフォーメーション)となるHRX(ヒューマン・リソース・トランスフォーメーション)が注目されている。

 2点目は雇用や働き方の変化だ。従来の日本企業に多い、仕事内容や勤務地を限定しない「メンバーシップ雇用」から、職務に適したスキルを有しているかどうかを重視する「ジョブ型雇用」への移行に加え、コロナ禍でテレワークが普及し、働く時間や場所も多様化している。これまであまり推進されてこなかった副業や兼業も容認が進み、人材の流動化が進んでいる。

 3点目は労働人口の変化だ。大卒年齢の22歳人口は減少し、団塊世代は後期高齢者となった。今後、労働人口の減少が進み人材不足はより深刻化する。優秀な人材の確保や定着のためには、1990年代半ば〜2010年初頭生まれの「Z世代」特有のライフスタイルや価値観にも配慮する必要がある。

 4点目はHRテックのフェーズ変化だ。データ取得のテクノロジーが進展し、人事課題に関する要因把握や対策に活用され始めている。人事が扱う基本情報以外にも、多種多様なデータを組み合わせて活用する道が開けてきた。

リクルートMSの湯浅大輔氏 リクルートMSの湯浅大輔氏

 こうした背景が起点となり、「HRXは、人事領域における『データ活用や分析技術の民主化』や経営からの期待の高まりを受け、この5年ほどで推進のスピードが加速した印象です」と湯浅氏は言う。

 HRXで用いられるデータは採用(適性検査やES)や育成(研修)、配置(異動履歴、配属希望)、評価、報酬(月給、給与)、労務(労働時間、休暇取得)だけではない。各種業務システムにあるデータ――営業の売り上げや活動履歴、あるいはメールやチャットなど日々のコミュニケーションの履歴も本人同意の上で組み合わせて活用されている。

 また、人事におけるデータ活用で主要な要素としてまず思い浮かぶのはデータ整備だが、これ以外にも法令などにのっとったデータ活用ガイドラインの整備、データ分析インフラの構築、推進組織の構築、人材育成・獲得も重要だ。これらの要素がうまくかみ合うように取り組むと、HRXは成功につながりやすい。

 ただし、人事領域におけるデータ活用には気長さも必要だ。昨今のDXやAI(人工知能)活用で短期間で大きな成果を獲得した成功事例を目にするが、人事領域で同様のスピード感を期待すると失望に反転してしまう。

 湯浅氏は「HRXチームやプロジェクトを立ち上げたものの、1年くらいで解散というケースも聞きます。スモールスタートでいいので『人事データから付加価値が出せるのだ』という成功体験を積み上げること、経営戦略にひも付けてトップダウンでチームを作ることも重要です」とアドバイスする。

新人のオンボーディング課題をどのように解決するか

 ここからは幾つかの場面ごとに人事課題と具体的な取り組みを見ていこう。まずは新人や若手のオンボーディング(on-boarding:新入社員が職場に慣れるように支援する)を例に挙げる。優秀な人材を採用しても、育成で壁にぶつかるケースが顕在化している。コロナ禍後の入社だと、テレワークで孤独感を深めて早期退職に至るケースもある。新たな仲間が事業や組織へのエンゲージメント(つながりや所属意識)を強められるかどうかは重要だ。

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