Azure提供基盤のサーバ2年延命の決定は顧客を幸せにするかCIO Dive

高い収益を叩き出す3大クラウド事業者がいま取り組むのは、実はコスト構造の見直しだ。MicrosoftはAzureの提供基盤におけるサーバの利用年数を延長して収益力を維持する計画を打ち出した。果たして「顧客への還元」はうまく回るだろうか。

» 2022年09月06日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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 MicrosoftとAmazonは2022年7月末の四半期決算説明会で、インフレと金利上昇が顧客に与える財務上および経営上の負担に触れ、クラウドサービスユーザーのコストを抑制することを約束した。

 景気動向は企業に悪影響をもたらすかもしれないが、市場シェアをめぐる競争はIaaSやPaaS価格の乱高下を防ぐには意味があるかもしれない。

 技術調査会社Amalgam Insightsのチーフアナリスト、パク・ヒョン(Hyoun Park)氏は次のように語る。

 「クラウドサービスベンダーは大規模な競争の時代に突入しつつあることを理解しているため、(競争に耐える体力づくりのために)コスト構造を見直しつつある。この競争はベンダー間あるいは大企業の財務上の全ての決定において勃発すると予想される」

 「クラウドの経済学」はますます面白くなってきているのだ。

売り上げ絶好調の中で進む「次の勝負に向けた投資抑制策」

 米国市場が2四半期連続のGDP縮小に備えて金利引き上げの影響を吸収する中、米国の大手クラウドサービスプロバイダー3社は四半期ベースで増益を達成した。

 2022年8月に発表されたCanalysのレポートによれば(注1)、Amazonは「Amazon Web Services」(AWS)の売り上げを200億ドル近く計上し、第2四半期のクラウドインフラサービス全体の売り上げの31%を占めた。

 市場シェア24%で第2位の「Microsoft Azure」については、Microsoftのクラウド部門の四半期収益で見ると250億ドル以上となっており、シェア第3位で8%を占めるAlphabet(Googleの親会社)の業績を見ると「Google Cloud」は63億ドルの収益を得ている。

Canalysのレポートによれば3大クラウドサービスプロバイダーはクラウド支出全体の6割超を占める(出典:Canalys「Global cloud services spend up 33% to hit US$62.3 billion in Q2 2022」)

 調査会社Forresterのバイスプレジデント・リサーチディレクターであるグレン・オドネル氏は、コロナ禍でクラウドビジネスが活況を呈した際、この3大プレイヤーが「市場をリードした」と述べている。

 Gartnerの最新予測によれば(注2)、大規模な資本支出に消極的な企業や、不透明な経済状況の中でテクノロジーを活用した効率化のメリットを追求する企業に後押しされ、クラウドを採用するブームは2023年まで続く。クラウドへの支出は20%の割合で成長するという。

 「クラウドサービスプロバイダーは、企業が大規模なオンプレミスのIT基盤構築からクラウドに支出を振り向けることで、利益を得ることになる」とパク氏は指摘する。

 「クラウドサービスプロバイダーは2023年にかけて戦時物資補給のような活況ぶりになるだろう」とパク氏は言う。

本当に6年もつ? Microsoftが決定したクラウドサービス基盤のサーバ延命策とコストの課題

 クラウドは安いソリューションではない。パク氏が共著したAmalgam Insightsのレポートによると(注3)、IaaSとPaaSの費用は2019年以降、世界的に年率50%近く増加している。企業は機能の追加を急ぎ、ベンダーは新機能の追加に応じた。

 企業は従来、IT支出を収益の3%とベンチマークし、毎年テクノロジー支出全体の最大でも5%増に抑えることを計画してきたとパク氏は言う。つまり、毎年50%増というのは極めて大きな増加率だ。

 「ITのある領域の支出が際立って増加している場合、それは好ましい状況ではない」とパク氏は言う。「一般的なビジネス部門の管理者がテクノロジーに対して抱いている前提を狂わせてしまう」

 Gartnerのバイスプレジデントアナリストであるシド・ナグ氏によれば、顧客がクラウド投資からより大きな価値を引き出せるよう支援するAWSの取り組みや、2023年度に37億ドルを節約するためにクラウドサーバの寿命を2年延長するというMicrosoftの決定は(注4)、マクロ経済とインフレの圧力に対する両社の理解を反映している。

 「資本支出を削減し、価格を上げることなく営業利益率を維持し続けることができる」とナグ氏は話す。

 Microsoftがインフラの節約分を顧客に還元したことで、AmazonやGoogle Cloudに対して追随するような市場の圧力を感じてくれれば、クラウドコストの一部を相殺できるが、全てのクラウドコストに適用されるわけではない。

 「具体的なサーバの購入額を各種クラウドサービスのコストに反映させるのは難しい」とパク氏は言う。

 パク氏の言に従えば、レガシーストレージは大幅に安くなるはずだ。しかし、エキゾチックで魅力的なクラウド機能の多くは、より多くの計算能力と高度な処理能力を必要とするため、価格は下がらないと見られる。

 パク氏は、機械学習やロボットによるプロセス自動化など、「デジタルトランスフォーメーションに必要だと考えらる機能」について、「目新しく興味深いテクノロジーは、おそらく大幅に価格が下がることはないだろう」と述べる。

 国内第2位のクラウドサービスプロバイダーであるMicrosoftのクラウドサービス基盤キャパシティが(2年延長の決定を受けて)計6年間も持ちこたえられるのか、という懸念もある。

 「2年は長い」とオドネル氏は言う。「個人PCで考えてみれば、3年前のPCならそろそろ老朽化の兆しが見る。3〜5年経つとほとんど実質的に役に立たないもの(boat anchor)になってしまう」

 MicrosoftのCFO(最高財務責任者)であるエイミー・フード氏は、2022年6月30日の決算説明会で、「サーバやネットワーク機器の運用効率を高めるソフトウェアへの投資と、テクノロジーの進歩」を(2年延長の)決定の理由に挙げた。

 Microsoftは「CIO Dive」編集部のコメント要請に対して、「差別化されたクラウド製品への需要の高まりに対応するため、クラウドインフラへの投資を続けている」と電子メールで回答した。


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