ロックダウンで「致命的ダメージ」を負った中国企業のDXが進む理由中国人アナリストが切り込む「中国DX事情」(1/2 ページ)

先端技術のイメージが年々強まる中国。中国ではDXをどのように定義しているのか。コロナ禍は中国企業のDXにどのような影響を与えたのか。中国人アナリストが解説する。

» 2022年09月30日 12時00分 公開
[周 逸矢野経済研究所]

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筆者紹介:周 逸 (矢野経済研究所)

2005年矢野経済信息諮詢(上海)入社。約300分野の合計約400件の調査案件を幅広く経験し、中日両国企業のビジネスマッチングも担当。xEVや自動車サプライチェーン、IT全般、商業施設および不動産、電子機械、化学素材などの調査を実施。ニッチな調査ニーズへの対応を得意とする。日本語学習歴は30年。



 中国(中華人民共和国)ではデジタルトランスフォーメーション(DX)を「数字化転型」と表記することが一般的だ。数字化転型は「AI(人工知能)やビッグデータ、ブロックチェーン、クラウドコンピューティング、5G、量子コンピュータなどの先端技術によって企業経営に革新を起こすこと」を指す場合が多い。

 上海で生活する筆者(中国人)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)まん延に伴う数字化転型の進展を身近に感じている。最近社会実装された技術は次の通りだ。

  • コンピュータビジョン技術を活用した自動体温検査機
  • 通信キャリアが発行する国内の都市を跨ぐ移動履歴情報
  • QRコード経由で発行されるCOVID-19の感染有無やワクチン接種履歴情報を記した「健康カード」
  • オンライン予約や有名医師によるオンライン診断、登録医師の経歴や得意とする治療分野などの確認、オンライン決済などの機能を実現する医療系「Mini Program」(中国で多くの利用者を抱えるチャットアプリ「WeChat」に組み込まれた第三者医療機関が開発したアプリ)

 上記全てが個人IDとリンクしている。サービスの開発や運営は事業者が実施しているが、中国政府による一元管理の下、リソースの最適化が図られている。

産業界においても企業規模や業界を問わず、数字化転型の成功事例をよく耳にする。中国の数字化転型の全体像とそれを推進する政策を見ていこう。

中国企業がDXに注力する「6つの要因」

 まずは市場調査データから米国、中国、日本のデジタル経済規模を比較してみよう。

 中国主要国家機関である工業和信息化部(工業・情報化部、MIIT)直属のシンクタンク機構である中国信息通信研究院(中国情報通信研究院、CAICT)は、世界のDX動向を把握するために主要国のデジタル経済規模や特徴を研究し、2016年頃から「グローバルデジタル経済白書」と題するレポートを毎年発表してきた。

 同レポートは「デジタル経済」を「デジタル産業化」と「産業デジタル化」の2つの構成要素に分類し、独自の計算関数で主要国のデジタル経済規模を推計している。

図1 中国信息通信研究院によるデジタル経済の定義(出典:中国信息通信研究院『グローバルデジタル経済白書』) 図1 中国信息通信研究院によるデジタル経済の定義(出典:中国信息通信研究院『グローバルデジタル経済白書』)

 米中日3カ国のデジタル経済規模は下表の通り推移している。2016年と2021年を比較すると、米国と中国は1位と2位を維持しているのに対し、日本は2017年にドイツに抜かれ、3位から4位に1つ順位を落とした。

 経済規模で見ると、2016年には米国は日本の約4.7倍、中国は日本の約1.5倍、米国は中国の3.1倍だったのに対し、2021年には米国は日本の約5.6倍、中国は日本の約2.6倍、米国は中国の2.1倍となった。6年間で米中の格差が縮小し、日本は微増にとどまっていることが分かる。

図2 米国、中国、日本のデジタル経済規模推移の比較(出典:中国信息通信研究院『グローバルデジタル経済白書』2017〜2022年版のデータを基に筆者が集計) 図2 米国、中国、日本のデジタル経済規模推移の比較(出典:中国信息通信研究院『グローバルデジタル経済白書』2017〜2022年版のデータを基に筆者が集計)(注1)

 中国のデジタル経済は短期間で急成長を遂げた。なぜ中国企業は数字化転型に注力し始めたのか。筆者は以下の6つが主な要因だとみている。

  1. 中国中央政府(以下、中国政府)の強い「デザイン力」
  2. 中国政府による大型のITインフラ投資
  3. 法整備の進展
  4. 米中貿易摩擦など外部環境の変化への対抗
  5. 盛んな民間投資
  6. COVID-19の影響

 中でも「中国政府の強いデザイン力」は、2〜6を支える必須条件だ。それぞれについて簡単に説明する。

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